研究課題/領域番号 |
19K11812
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
山中 克久 岩手大学, 理工学部, 教授 (60508836)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルゴリズム理論 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果は主に3つある.1つは,包囲多角形に対する多項式時間遅延アルゴリズムを開発したこと.2つ目は,独立点集合に対する遷移問題について,parameterized complexity の視点からの調査を行ったこと.3つ目は,あみだくじに対する遷移問題に関していくつかの研究成果が得られたことである.それぞれに関して詳細を述べる. 2次元上の点集合Sに対する包囲多角形Pとは,Sの各点が,Pの内側に含まれている,または,Pの点になっているような多角形である.これは,計算幾何における平面ハミルトンサイクルの条件を緩めたような多角形になっており.平面ハミルトンサイクルは,必ず包囲多角形であるが,その逆は必ずしも成り立つとは限らないという関係になっている.平面ハミルトンサイクルを列挙する多項式時間遅延アルゴリズムが存在するかどうかは計算幾何における未解決問題であるが,本研究において,包囲多角形に対しては,多項式時間遅延アルゴリズムが存在することを示した. グラフに対する独立点集合とは,グラフの頂点部分集合であって,部分集合内の任意の2点は,グラフ上で互いに隣り合わない集合のことである.本研究では,独立点集合のサイズとグラフの次数をパラメータとしたときに,FPTアルゴリズムが存在することを示した.さらに,遷移ルールとしてトークンジャンプに関する結果の1つが,異なる遷移ルール(トークン追加・削除)に拡張できることを示した. 最後に,あみだくじの遷移問題に関しての成果を述べる.あみだくじを定数時間遅延で列挙するアルゴリズムはすでに知られている.その結果を用いると,2つのあみだくじに遷移列があるかどうかの判定問題を解くことができる.しかしながら,そのようにして得られた遷移列は最短になっているとは限らない.本研究では,最短の遷移列を求める線形時間アルゴリズムを提案することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,主に3つの研究成果が得られており順調に進展していると判断した. 1つ目の研究成果においては,包囲多角形という計算幾何のオブジェクトに対して,高速な列挙アルゴリズムを開発することに成功している.これは,計算幾何における未解決問題に対する新たな知見を与える研究成果になっており,今後の研究の進展が期待できる研究成果である. 2つ目の研究成果は,独立点集合の遷移問題という組合せ遷移分野における主要な研究対象に対して,近年注目されている parameterized complexity の観点からの知見を与えており,当該分野における重要な研究成果であると考える. 3つ目の研究成果は,あみだくじの列挙アルゴリズム構築で得られた知見を活かし,遷移問題に対する研究成果を得ることができたという事例になっている.この研究成果は,列挙問題と遷移問題の関係性を探るきっかけになる可能性を秘めており,継続して研究することが望ましいと考える. 以上のように,重要だと思われる研究成果が着々と得られており,順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,包囲多角形の列挙問題,遷移問題について取り扱っていく予定である.2020年度の研究成果では,あみだくじの列挙アルゴリズム構築で得られた知見を活かし,遷移問題に対する研究成果を得ることができた.2021年度は,あみだくじではない別の対象に対して同様のことが可能かどうかを調査する.具体的には2020年度に本研究で提案した包囲多角形に対して,同様のことが可能かを調査する.すなわち,包囲多角形に対して,列挙アルゴリズム構築の知見を遷移問題を解く手がかりとして利用するという研究を行う.これを足がかりにして,列挙問題と遷移問題の関係性を探り,列挙問題に対する難しさの知見を得ることを目指す.
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