2023年度については,標準的なメッセージパッシングシステム上のアルゴリズム設計に加え,分散計算に動機づけされたより広範な計算モデルを対象として研究を行い,主に以下の3点の成果を得ることができた. (1) 最大マッチング問題に対するより高速な分散アルゴリズムを設計した.同問題に対しては本研究において2022年度に世界で初めて非自明な計算時間を達成するアルゴリズムが提案されているが,本年度は同様の問題に対して,出力マッチングサイズの線形時間で解を出力する新たなアルゴリズムを提案することができた.この結果は2020年度にAhmadiらにより提示されていた未解決問題を肯定的に解決するものである. (2)分散システム設計に動機づけられた解の変形問題(遷移問題)に対する研究を行った.具体的には,独立点集合遷移問題と呼ばれる問題に対して,操作の局所性と遷移可能性のトレードオフに関して,操作の局所性をパラメータとしたときの計算複雑性の変化を従来研究よりも精緻な形で解析した.特に,局所性が小さい場合,パラメータの変化に対して計算複雑性が極めて鋭敏に変化するケースがあること,また,パラメータが大きい場合についてはその値の差異が遷移可能性に影響を与えないことを明らかにした. (3)動的環境における極大独立点集合問題に対して,環境追従性のパラメータ化に関する研究を行った.入力となるネットワークが時々刻々と変化する環境においては,一度求めた解(本研究においては極大独立点集合)の正当性がネットワークトポロジ変化により容易に破壊される.本研究では,そのような状況において永続的かつ連続的に解の質的保証を達成するために「解の壊れ具合」を定量化する新たなパラメータを導入し,そのもとで「ほぼ正しい」解を確率的に維持し続けるアルゴリズムを提案した.
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