研究課題/領域番号 |
19K11827
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
長坂 耕作 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (70359909)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 有理関数近似 / 近似GCD / Bernstein基底 |
研究実績の概要 |
令和元年度の研究計画では,近年の近似GCDや近似無平方因子アルゴリズムの研究成果に基づく,1変数多項式を用いた有理関数近似による曲線や曲面の近似・補間操作の再評価を,過去に開発した1変数多項式の近似GCDを求める複数のアルゴリズムを実装したライブラリを活用して実施する予定であった。この再評価を2000年に発表された有理関数近似の手法で行ったところ,近年の近似GCDアルゴリズムによる性能向上は見られるものの,サンプリングデータとの誤差に関してはあまり改善が見られなかった。 研究代表者は,多項式の係数に一定の誤差が含まれていると考える近似GCDでは,関数の値(関数のグラフ)の摂動を最小化出来ないと考え,単項式基底(通常の多項式表現で用いられる方法)ではなく,Bernstein基底による表現での近似GCDを導入すること提案した。Bernstein基底多項式を用いた多項式の表現では,その係数部分が僅かに摂動しても,関数の値(関数のグラフ)の変化は十分小さく抑えられることがわかっている。これにより,例えば,近似GCDによる約分操作で係数が摂動しても,有理関数自体の取りうる関数の値は大きく変化しないことが期待される。実際にこの方法により,近似GCDによる約分操作の前後で,従来よりも関数の値(関数のグラフ)の摂動を小さく抑えることが可能となった。本方法は,令和元年度に研究集会等で速報を報告し,令和2年度の国際学会等での研究成果発表に向けて論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和元年度の研究計画では,近年の近似GCDや近似無平方因子アルゴリズムの研究成果に基づく,1変数多項式を用いた有理関数近似による曲線や曲面の近似・補間操作の再評価を,過去に開発した1変数多項式の近似GCDを求める複数のアルゴリズムを実装したライブラリを活用して実施する予定であった。本来であれば,近年の近似GCDにより有理関数近似の性能が向上しており,それが実際の曲線や曲面の近似・補間操作にどのような良い影響を与えるかを調べること自体が目的であった。しかしながら,研究実績の概要に記述した通り,曲線や曲面の近似・補間操作以前に,近似GCDによる有理関数近似の性能向上自体に課題が見られたため,令和2年度以降に予定していた1変数多項式の近似GCDなどの改良を前倒しで実施した。結果として,良い方法を見つけることが出来たため,当初の計画以上に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では,令和2年度以降,多変数の近似GCDアルゴリズムと近似Groebner基底の改良に取り組むこととなっている。しかしながら,令和元年度の研究実績により,関数の値(関数のグラフ)の摂動の観点からは,近似GCDにはさらなる改良の余地があると思われる。そのため,本研究課題がベースとしている,1変数多項式の近似GCDとそれによる近似無平方分解のさらなる改良が中長期的に見て必要と判断し,Bernstein基底を用いた近似GCDの拡充,近似GCDによる近似無平方分解の再検討,そしてそれらの手法の多変数の近似GCDアルゴリズムへの適用可能性の検討を,今後の研究計画の中で重点的に進めるべきと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画では多面的に近似GCD等の曲線・曲面の近似や補間に対する評価を実施する予定であったため,その大量のデータを保管する機器の購入を計画していた。しかしながら,研究実績報告にも記載した通り,評価の最初の段階で有理関数近似に用いる近似GCDの改良が必要と判断し,令和元年度の研究のほとんどはBernstein基底多項式を用いた近似GCDの研究により替えられた。このため,データ保管機器の優先度が下がり,また,Bernstein基底多項式を用いた近似GCDはこれまでの近似GCDと性質が大きく異なるため,令和2年度に当初の計画を前倒しにして本研究課題に関するワークショップを開催するために令和元年度の執行を控えることとした。ところが,新型コロナウイルスの感染防止の観点から,ハンズオンを含む従来型のワークショップの開催は難しい状況となっている。このため,次年度使用額は当初計画の小規模計算用ワークステーションの購入における,申請額と助成額との差額に充てる予定である。
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