研究課題/領域番号 |
19K11832
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
安藤 映 専修大学, ネットワーク情報学部, 准教授 (20583511)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | #P-困難性 / 近似アルゴリズム / 高次元多面体 / 体積の計算 |
研究実績の概要 |
平成31年度(令和元年度)においては、予備研究の成果を国際会議TAMC2019(査読あり)にて発表したほか、論文誌に論文を投稿して現在査読中である。 国際会議TAMC2019において発表した内容は、n次元正軸体を一つの半空間で切り取ってできる多面体の体積の計算アルゴリズムである。この多面体はn次元のハイパーキューブと1点の凸包として与えられる多面体を考えたとき、幾何双対の関係にあり、本研究の着想の理由の一つである。本発表ではこの幾何双対の関係にある二種類の多面体について、どちらにも体積を正確に計算する多項式アルゴリズムが存在すると確かめられた。 現在査読中の論文は、n次元ハイパーキューブを指数個の半空間で切り取ってできる多面体の体積に関する高速近似アルゴリズムに関するものである。この指数個の半空間には制約があって、閉路のない有向グラフ(DAG)について、その辺長さを変数とし、このグラフの入口から出口までの路の長さが実数x以下という制約で書ける形の半空間である。特にこのグラフの木幅と呼ばれるパラメータが定数以下の場合にはFPTASと呼ばれる種類の高速近似アルゴリズムが存在することを示した。この場合も#P-困難と呼ばれる難問であるが、これは与えられたDAGの辺の長さが一様分布に従って互いに独立な確率変数である場合に、入口から出口までの最長路の長さを確率変数と考えてその分布関数を求める問題と一致する。この論文ではその手法を応用して辺の長さが標準指数分布に従う場合や、Taylor多項式による近似が容易な場合についても同様の結果を合わせて示した。 なお、当初計画に示した多面体とは異なるものに関する論文となったが、これは想定よりも困難な部分があったためである。このため計画書に示したように別の多面体の体積を計算する問題を考えて解法を提案したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に述べた通り、当初の目標としていた多面体については、想定に比べて困難な問題を含んでいた可能性があるものの、別の多面体に関して研究を行って成果を出した。今回成果を投稿した多面体(ハイパーキューブを指数個の半空間で切り取ってできる多面体の体積)については申請書に記述した範囲に収まると考えており、研究はおおむね順調に進展していると考えている。 当初計画に対する位置づけとして、この多面体はナップサック多面体に関する既存の結果を更に拡張したものである。本研究で掲げている予想と合わせると、ある種の条件のもとで、指数的に多数の頂点と正軸体の凸包を考えて、その体積を求める問題を考えられる。この問題はかなり挑戦的な課題ではあるが、本研究としては高速近似アルゴリズムがあり得るという立場で研究を進めることになる。 また、投稿した論文では多面体の体積にとどまらず、閉路を持たない有向グラフ(DAG)の最長路問題において確率変数の辺長さが与えられた問題としてとらえなおした場合に関する研究成果を追加で出しており、その分に関しては当初計画よりも進んでいる。 なお、当初の目標としていた多面体はn次元正軸体を平行移動したのち、その幾何双対として得られる多面体である。こちらについては、ハイパーキューブを歪めたような形の多面体となるが、現状その体積の計算をするアルゴリズムの設計にある課題は、この多面体の各面が一つだけ次元を落とした(n-1次元の)同様の多面体となっていることである。こちらに関しては、「今後の研究の推進方策」で述べる通り検討を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は今まで得られた多面体について、特に幾何双対として得られる多面体の体積を計算する方法について引き続き検討を行う予定である。特に現在はn次元正軸体および複数の頂点の凸包として与えられる多面体の体積を近似計算するアルゴリズムについて検討を行う。並行して、当初の目標の一つであったn次元正軸体を平行移動したものの幾何双対多面体の体積の計算を検討する。 n次元正軸体および複数頂点の凸包に関しては次のように検討する。既存研究の結果としてn次元正軸体と一つの頂点の凸包として得られる多面体(幾何双対ナップサック多面体)の体積を近似するアルゴリズムが得られていた。この結果をうまく拡張する方法について検討を行う。既存研究ではn次元正軸体の外部にある1点に向かって等比的に正軸体を並べ、その和集合の体積を用いることで近似を行っていた。これに対し複数点になった場合には、正軸体の並べ方、その和集合の体積の近似の仕方、近似をする際の解析が重要なポイントになる。 n次元正軸体を平行移動したものの幾何双対多面体については、当初の見込みとは異なる手法が必要なことが分かってきた状況である。これから検討する方法は、全ての頂点を一度に動かすのではなく、正軸体の頂点(2n個)を一つずつ動かし、そのたびに幾何双対多面体の体積を再計算する手法である。もとの多面体の頂点は、幾何双対多面体の面に対応するため、元の正軸体の頂点を一つ動かすことによって、元の多面体の面が一つだけ動くことになる。このため、全ての頂点を一度に動かす場合に比べて状況の把握およびその解析は比較的容易である可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として445円を計上しているが、これは無理に全額を使い切ることをしなかったために発生した端数である。次年度の消耗品等を購入する際に無理なく使用することができる見込みである。
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備考 |
投稿し査読中の論文をarXivに掲載したものである。
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