研究課題/領域番号 |
19K11836
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
林 俊介 法政大学, 理工学部, 教授 (20444482)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 最適化 / 数理工学 / 均衡問題 / 都市経済モデル / 交通モデル / インフラ最適化 |
研究実績の概要 |
令和2年度に得られた成果として,『落石対策工に対する最適設計アプローチの提案』が挙げられる.本研究は,東北大学災害科学国際研究所との共同研究であり,落石対策工の設計という土木工学における実務的な課題と数理最適化とを融合させた課題であると言える.本研究では,落石対策工の中でも防護土堤に焦点を当て,その設置計画について,防災性能と経済性の観点から,離隔距離と防護土堤長を決定変数とした最適化問題としての定式化を行った.実際,土堤と斜面の距離が近いと,土堤長が比較的小さくても多くの落石パターンに対して受け止めが可能となる反面,衝突エネルギーによる土堤へのダメージが大きくなる.一方,土堤と斜面の距離が遠いと,土堤への衝突ダメージを小さくできる反面,土堤長をより長く取らないと落石の多くを受け止めきれなくなる.よって,離隔距離と防護土堤長を適切に定めることが重要となってくる.なお,数理最適化の分野では,目的関数や制約関数が明示的に与えられているケースが多いが,本研究では,それらをDEMシミュレーションとよばれる手法を用いて設定した.DEMシミュレーションとは,単純斜面上で独立した5000ケースの落石シミュレーションを八面体の仮想岩塊を用いて計算機上で行うものであり,それにより,土堤への衝突エネルギーと衝突位置のデータを統計的に得ることができる. 本研究は,当初予定していた交通・経済モデルとはやや異なるが,インフラという社会経済の基盤となる研究課題でもあることから十分関連性があると言える.また,DEMシミュレーションは落石箇所と衝突エネルギーに対する確率分布(分布関数)を評価するため,無限次元最適化問題の枠組みで見ることもできる.なお,本研究で得られた成果は,論文として国際ジャーナルでもあるEngineering Geologyに投稿し,年度内に採録が確定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように,令和2年度は落石対策工最適設計問題が最も大きな成果であったが,当初想定していた都市経済学におけるFujita-Ogawa(FO)モデルや,交通計画学における通勤時刻選択均衡問題に対してもいくつか研究成果を得るに至った.具体的には,FOモデルに関する様々な二点間距離の取り方による均衡解の変化とその解析,通勤時刻選択均衡問題に対する問題構造のMonge性を用いた均衡解析などが挙げられる.これらの結果はすべて論文として完成に至った訳ではないが,この1年間で明らかになった点も少なくない.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は落石対策工最適設計問題に時間をかけた部分もあったが,本年度はまた当初の予定に戻って,無限次元最適化問題や交通経済モデルに対する研究に注力していきたい.無限次元最適化問題に関しては,半無限計画問題に対する内点生成アルゴリズムに関してある程度の解析結果と研究成果が得られており,これらをまとめて行く段階にある.また,通勤時刻選択均衡問題に対しても,結論もほぼ固まっており,最終段階にあると言える.それら以外にも,錐最適化問題に対するアルゴリズム開発や高速化,それらの現実社会への応用など,数理最適化の発展のために寄与して行きたい.また,コロナ禍が収まった暁には,2019年度以前と同様,積極的に学会に参加し,研究成果を発表していきたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は,(i)コロナ禍により対面による学会がまったく開催されなかったことと,(ii)所属が東北大学から法政大学に変わったことにより,当初の使用計画と大幅に異なる結果となった.旅費に関しては,(i)の理由により,殆どすべての学会がオンライン開催となり,当初想定していた額が殆ど不要となった.一方,物品費に関しては,(ii)の理由により研究環境の再整備が必要となり,当初の予定よりも大幅に費用が増加する結果となった.しかしながら,物品費の増加分が旅費の減少分を上回るほどにはならなかったため,結果的には十数万円ほど次年度分として繰り越す結果となった. 令和3年度は,秋以降は対面による学会開催も増えて行き,他の研究者とのフェーストゥフェースの議論も盛んになることが期待されるため,令和元年度のような旅費の使用が予想される.また,物品費に関しては,令和2年度の法政大学着任年度に研究環境の整備が大分進んだものの,計算機の周辺機器やソフトウェア,書物等,研究を推進していく上で必要となるものが幾分有るので,それらに充てて行く予定である.よって,現在のところ,直接経費のうち4~6割程度を旅費,残りを物品費とその他に充てて行く予定である.
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