研究課題/領域番号 |
19K11836
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
林 俊介 法政大学, 理工学部, 教授 (20444482)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 最適化 / 数理工学 / 均衡問題 / 都市経済モデル / 交通モデル |
研究実績の概要 |
令和4年度の成果としてまず挙げられるのが,弱一価性(weak univalence)をもつベクトル方程式に対するinexactな逐次単射アルゴリズム(Inexact Sequential Injective Algorithm: ISIA)を提案したことと,その大域的収束性を証明したことである. 弱一価性とは単射関数列の極限として特徴づけられる性質であり,単調性を含む幅広いクラスの関数を内包する.このような弱一価性をもつベクトル方程式に対して,単射ベクトル方程式を逐次的かつinexactに解くことにより,生成点列を解集合に収束させるようなアルゴリズムを提案した.さらに,解集合のコンパクト性と非空性の仮定のみで,生成点列の任意の集積点がベクトル方程式の解となることを理論的に証明した. なお,本アルゴリズムは具体的な計算ステップを記述したアルゴリズムというよりは,多くの既存アルゴリズムのプロトタイプとなり得る抽象的なアルゴリズムである.実際,本研究では,混合二次錐相補性問題に対する正則化平滑化ニュートン法をISIAのプロトタイプに当てはめることにより,Cartesian P0性の仮定の下での大域的収束性を示した.この結果は,国際ジャーナルであるNumerical Algebra, Control and Optimization (NACO)に投稿し,採録されるに至っている. なお,該当論文ではISIAを混合二次錐相補性問題にのみ適用しているが,本研究で対象とする無限次元最適化問題にも適用できないかを模索している次第である.実際,ISIAは有限次元方程式を対象としているため,直接的な適用は困難かもしれないが,任意の有限近似問題に対する適用や,半無限計画問題に対する適用であれば可能ではないかと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度までは「落石対策工に対する最適設計アプローチ」や「出発時刻選択均衡問題」といった土木工学分野に現れるモデル・応用問題に対する研究結果が多かったが,令和4年度は前述のようなアルゴリズム開発およびそれに伴う理論的な結果を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
本来は令和4年度が本課題の最終年度であったが,コロナ禍による研究活動の制限等もあり,期間を延長することとした.そこで,令和5年度は,理論研究と応用研究をバランスよく結びつけるような研究に取り組んで行きたい.令和3年度までは土木工学における落石対策工の最適設計や交通モデルにおける出発時刻選択均衡問題といった応用問題の最適化アプローチに対する研究成果が多かった.一方,令和4年度は弱一価ベクトル方程式の解析や,inexact逐次単射アルゴリズムの提案といった理論的な結果を得ることができた.両者の結果は全く関連が無い訳ではないが,現状ではまだ十分リンクしているとは言い難い.そこで,モデル解析とアルゴリズム解析を融合させた研究を行っていくことを今後の研究推進方策として挙げたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は対面での学会が始まりつつある状況であり,令和3年度までと比べると出張の頻度も大分増えたように思う.しかしながら,国際会議に参加するにはまだ抵抗がある状況であったし,8月に北京で行われた最適化の国際会議(International Symposium on Mathematical Programming: ISMP)が完全オンラインであったように,欧米に比べてアジア諸国は国際会議の対面化が遅れる傾向にあったように思う.したがって,令和3年度より国内出張は増えたものの,国外出張を積極的に行う状況ではなかった.ただ,令和5年度は日本でも脱マスクが進み,2019年度以前の状況にかなり近づいてくることが期待できる.よって,旅費に関しては国内外の学会参加,共同研究の推進,物品費に関しては,計算機の周辺機器やソフトウェアおよび書物等に充てて行くことを考えている.
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