研究実績の概要 |
風向きや生物の移動方向を表す角度データに対する確率分布は円周分布と呼ばれている. また, 風向きと風力のように, 角度変数と, 何らかの(非負)実数値をとる変数との同時分布のことをシリンダー上の統計モデルという. 2022年度においては, 円周上, シリンダー上の非対称な統計モデルの分布族がパラメータに関して識別可能となる条件を明らかにした論文がSankhya Aで出版された. この結果により, 円周上, シリンダー上の非対称な統計モデルにおける最尤推定量が一致性を持つための条件が明らかになった. さらに, この論文においては, Generic identifiabilityと呼ばれる有限混合モデルにおける識別可能性についても言及している. この性質は, 研究計画調書の研究目的, 研究方法などで書いている有限混合モデルおよび隠れマルコフモデルにおける最尤推定量が一致性を持つための十分条件の一つであることが知られている. さらに, 2021年度の研究実績の概要で述べた, 角度変数の周辺分布が非対称な形状にもなりうるシリンダー上の統計モデル(Extended sine-skewed cylindrical distribution)においては, そのモーメントを特殊関数を用いた形で与え, この分布族の識別可能性が成り立つことを示し, 乱数生成法も与えた. また, この分布をコンポーネントに持つ隠れマルコフモデルを提案し, 日本の風向, 風速データに適用し, 風向風速の状態が変化する時点の推定を行い, このモデルの有用性を示すことができた. この内容は, 2023年1月にルクセンブルク大学で行われたLuxembourg-Waseda Conference on Modelling and Inference for Complex dataにおいて報告を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
1. シリンダー上の強い非対称性を与えることができる統計モデルに関する論文の作成およびその投稿を最優先事項とする. 2. 円周上, もしくはシリンダー上の非対称な統計モデルをコンポーネントに持つ隠れマルコフモデルにおける最尤推定量が一致性を持つための条件を明らかにする. 円周上, もしくはシリンダー上の非対称な統計モデルは, Generic identifiabilityを満たすかどうかが明らかでないため, それに対応した条件を与える必要がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
複数年にわたるコロナウイルスの蔓延により海外での研究報告, 研究のための滞在をすることができなくなってしまったために次年度使用額が生じた. 今後の使用計画については以下の通りである. 1. 現在シリンダー上の統計モデルに関する論文を作成しているが, そのネイティブチェック, および論文が採択された場合の掲載料(Open access journal)に割り当てることを考えている. 2. 国際学会で隠れマルコフモデルに関する研究報告を行うため, およびこの分野を専門とする研究者の所属する大学に研究滞在を行うための旅費に割り当てる.
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