確率密度関数の集合を多様体と見なし、その上で統計的推論の構造を微分幾何学の方法により論じることから始まった情報幾何学は、これまで情報理論・最適化・機械学習などの関連諸分野にも影響を及ぼしながら発展してきたが、起源である統計学においては高次漸近理論やその他一部の限られた成果はあるものの、あまり大きな進展は得られていない。しかしながら、まだいくつもの未解決問題が残っており、統計的推論や統計的手法の構造を幾何学の観点から理解し発展させる可能性は十分にあると考えられる。そこで本研究は、申請者がこれまで行ってきた研究を踏まえながら、未解決である諸問題の解決を目指し、また解決すべき新たな問題の発掘なども行うことで、情報幾何学の統計科学における役割をさらに促進させることを目的としている。いくつか掲げている課題のうち、大きなものの1つは、無限次元情報幾何に関するものである。確率密度関数全体の集合に無限次元の多様体構造を導入して議論を進めていく研究は、既にいくつか存在しているが、そのほとんどは数学の立場からのものであり、そこで議論されている幾何学的な構造が統計的推論などにどのように関係しているかはまだ明らかになっていない。本年度は主に、この課題について考察し、既存の数学的研究を整理した上で、セミパラメトリック推測理論を1つの足掛かりとした研究の方向性について、英国で開催された国際会議RSS2023とオーストラリアで開催された国際会議IMS-APRM2024で発表を行った。また、昨年度に引き続き英国のSt Andrews大学を訪問し、シンプレクティック幾何と情報幾何との関連について、日本の共同研究者も交えて議論を行った。どの課題もまだ最終解決には至っていないが、これまでに得られた知見をもとに、共同研究者とも議論を重ねながら研究を続けていく予定である。
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