前年度までの研究では、認識論的ゴシッププロトコル(epistemic gossip protocol)やビザンチン将軍問題をはじめとするネットワーク内でのエージェントの知識や信念の成立過程の分析手法について研究を行なった。本年度は、これらの成果をさらに発展させるとともに、帰納的ゲーム理論としてモデル化できるより具体的な対象を探ることを行なった。 前者のネットワークにおける知識の分析については、あるエージェントが他のエージェントの故障を特定するための必要十分条件を明らかにするとともに、その定理が成り立つようなプロトコルの提案を目指して研究を行なった。また後者については、よく知られた不完全情報ゲームをもとに、プレイヤーにゲームのルール自体が事前に与えられていないようなゲームの有意義な具体例を検討した。本年度は、以上の研究成果をいくつかの国際会議論文として発表した。一方でいくつかの論文は不採択となったため、これらについては引き続き採択を目指して研究を行う予定である。 また以上の研究を通じて、今後の研究課題として、ネットワークでつながれた多数のエージェントがゴシップのような局所的なコミュニケーションを行う状況を想定し、その中である知識を得ることに対してインセンティブを持つようなゲームの分析を行うという着想を得た。特に、エージェントはあらかじめゲームの利得の構造を共有知識として持っているのではなく、ゲームを繰り返しプレイするたびに少しずつ帰納的に得るという設定を対象とする。このようなモデルの分析をもとに、コミュニケーションを通じた慣習の創発や意見形成といった問題を明らかにしたいと考えている。
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