ある入力に対して一度計算を行った後に入力がわずかに変化したとき、以前の計算結果を利用して迅速に変更された入力に対する計算結果を得る技法を漸増計算と呼ぶ。本研究では、漸増計算を考慮せずに記述したプログラムを漸増計算を行うプログラムへ変換するアプローチによって、一般的な漸増計算技法を与えることを目標としてきた。特に、パラメトリック多相型の理論に基づくことで、広い範囲のプログラムを扱える理論の構築を目指してきた。 昨年度までの研究の過程において、既存のパラメトリック多相型の理論に基づくプログラム変換手法が、複雑なプログラムの扱いには当初の想定よりは適さないことが判明した。そのため、本年度では、漸増計算を含む様々なプログラム変換の基礎理論となり得る証明技法を模索した。そして、Vogitlanderによる手品補題とBirdとde Moorによる関係計算の融合が有望であることを発見した。この成果は、Journal of Information Processingに採択された。 研究期間全体を通して、一般的な漸増計算技法を与えるという当初の目標を達成することはできなかった。一方で、その過程で、パラメトリック多相型の観点から漸増計算をはじめとするプログラム変換技法を論じる際の課題を明確化し、またそれに対する一定の解決法を与えることができた。これは、当初の目標とは異なるものの、有意義な研究結果であったと言える。
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