研究課題/領域番号 |
19K11917
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
津川 翔 筑波大学, システム情報系, 助教 (40632732)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ロバスト性 / 多層ネットワーク / 影響最大化 |
研究実績の概要 |
本研究では、複数のネットワーク同士が相互に依存し合うような多層構造を有するネットワークのロバスト性を向上させる手法を開発することを目指している。 2020年度は、ウィルスの拡散や誤情報の拡散を抑制し、多層ネットワークの機能を正常に保つための手法を研究した。 第一に、多層ネットワーク上での有害情報やウィルスの拡散を抑制する問題を、有害情報に対する訂正情報やウィルスに対するワクチンを配布するシードノードを決定する問題として定式化し、その問題に対するアルゴリズムの有効性を比較した。ノードの次数に基づきシードノードを選択する手法が、特に有効であること、また多層ネットワークのレイヤー間の相関の強さが、拡散の抑制効果に大きな影響を与えるということを示した。 第二に、ネットワークにおける少数のリンクを切断することで、ネットワーク上での有害情報の拡散をどの程度抑制することができるかを評価した。従来研究では、ネットワーク中の少数のリンクを切断することで、モデルで生成した情報拡散の規模を大きく抑制できることが示されていた。本研究では、モデルで生成した情報拡散ではなく、実際のソーシャルメディア上での情報拡散の履歴を用いて、リンク切断の効果を検証した。その結果、リンク切断による実際のソーシャルメディア上の情報拡散を抑制する効果は限定的であり、有害情報の拡散の抑制にリンク切断は有効ではないことが示唆された。 第三に、大規模ネットワークにおいて、訂正情報やワクチンを配布するシードノードを決定する状況を想定し、ネットワークの一部の限られたノードの情報のみからシードノードを決定する手法を検討した。ランダムウォークなどバイアスのあるサンプリング方式で、一部の限られたノードの情報を収集することで、大規模なネットワークにおいても効率的にシードノードを選択できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、多層ネットワークをウィルスや誤情報の拡散に対して頑健化するための手法の有効性を評価した。リンク切断の手法の有効性は限定的であったものの、少数のシードノードに対して訂正情報やワクチンを配布する手法は有効であることが明らかとなった。さらに、シードノード決定手法は大規模ネットワークにも適用できることが明らかとなった。 2020年度の目標は大規模な多層ネットワークに適用可能なロバスト性向上手法の提案と実験的評価であり、その目的は概ね達成されていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、これまで検討してきたロバスト性向上手法の理論的な評価と、実環境を想定した評価に取り組む。 小規模なネットワークにおいて、理論的な保証のあるアルゴリズムで求めた解と、これまで検討してきた大規模ネットワークにも適用可能なヒューリスティックなアルゴリズムで求めた解を比較する。これによって、ヒューリスティックなアルゴリズムの改良の余地を明らかにする。改良の余地が大きいことが明らかとなった場合には、アルゴリズムの改良にも取り組む。 また、有害情報やウィルスの拡散から訂正情報やワクチンの配布までに遅延がある場合や、訂正情報やワクチンが限定的にしか効果を発揮しない場合など、現実の状況を考慮した設定での評価も実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、COVID-19 の影響によって当初予定していた旅費の執行ができず、残額が生じた。 残額は、論文の英文校正費用、論文の掲載料、オンライン国際会議の参加費、など成果発表のための費用の一部として使用する予定である。
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