研究課題/領域番号 |
19K11919
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
大島 浩太 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (60451986)
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研究分担者 |
古谷 雅理 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (20466923)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多重経路通信 / LTE / IoT / 映像伝搬 |
研究実績の概要 |
本研究は、遠隔操船や自動運航船の実現に向けて世界的に急速な研究・開発が進められている海洋工学分野において、船舶の通信で主に利用されるVHF帯の専用装置ではなく、“通信品質に優れIP網との連携が容易でありICT技術と親和性の高い携帯電話網(LTE, 5G等)の海上での利活用による新たな価値創出”を目指したもので、“陸上に比べ極めて厳しい接続環境下での安定的な接続性の確保”,“場所固有の無線接続環境を考慮した効率的な回線選択”,“通信セッション毎の要求条件を考慮した通信品質制御”を特徴とする異種ネットワーク連携併用型の多重経路制御技術の開発を目的とする。 令和2年度は、通信制御の指標として重要となる海上における(1)無線通信の特性調査・分析の継続と、(2)複数のUDPストリームの配信レート制御のプロトタイプ開発を中心に実施した。(1)では、実際の船舶を用いて実施している受信信号強度や接続情報(基地局や利用周波数帯等)の記録に加えて、東京湾・浦賀水道の航路上の通信速度計測実験を実施し、実際に利用可能な通信速度をLTEバンド別に計測した。計測の結果、LTEバンド間で顕著な通信速度差を確認し、特に場所や時間帯によると考えられる変動が認められた。(2)では、通信特性が異なる複数のUDP接続を1つの通信セッション伝搬に分散的に用いる技術開発のための、評価用プロトタイプシステムを開発・構築した。複数のネットワークインタフェースを備えるホワイトボックススイッチ上に制御用OS(Linux)を導入し、各ネットワークインタフェースでLTE回線やキャンパスネットワーク等の特性の異なる接続を利用できるよう構成した。各ネットワークインタフェースインタフェースを利用するUDP接続の利用割合やパケット送出パターンを変更可能とする制御ソフトウェアを開発し、システムに導入して通信制御実験用の環境を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)利用するLTEバンドの固定利用とLTEバンド別の受信信号強度や基地局情報のロギングを可能とするよう開発したLTEモデム装置に、iperf3を用いた周期的な通信速度計測機能を具備させた端末を接続することで、LTEバンド別の通信速度計測システムを構築した。このシステムを用いて、東京湾から館山湾までの航路上で、LTEバンド別に周期的な通信速度計測を実施した。受信信号強度等の情報も同時に取得している。船舶上に設置した当該機器から、大学キャンパスに設置した受信用端末に対する上りトラヒックに対する実験の結果、各LTEバンドで通信速度に顕著な差が確認され、また利用場所や時間帯による変動について確認した。航行中の通信速度は、Band1(2.1GHz):平均13.5Mbps、最大24.3Mbps、最小1.4Mbps、Band3(1.8Ghz):平均22.1Mbps、最大33.4Mbps、最小3.5Mbps、Band19(900Mhz):平均7.1Mbps、最大12.2Mbps、最小1.4Mbpsという結果が得られた。結果から、LTEバンド間で通信特性に顕著な違いのあることが明らかになり、この特徴を考慮したリンクアグリゲーション制御は効率的な回線制御の実現に有効であることが示唆された。海上における無線通信は、接続可能な距離にある陸上の基地局を利用する必要があり、通信を利用する場所に基地局の数や利用できるLTEバンド、負荷状況等が異なる。そのため、継続的に調査を実施し、調査データ量を元に柔軟に多重経路通信制御を行うことが必要になると考えられる。 (2) 多重経路通信御方式の開発にあたり、様々な条件で通信性能を評価する必要があること、船舶に乗船できる機会が限られていることから、複数の通信回線の利用割合やパケット送出パターンを変更できる評価用プロトタイプシステムを開発し、有効性を検証した。
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今後の研究の推進方策 |
感染症対策の影響で船舶を用いた実験機会が大幅に減少していることを鑑みて、次のように研究を推進する。 (1) 多重経路通信の方式の開発と性能検証:評価用プロトタイプシステムを用いて、回線品質の差や変動を考慮した通信制御方式の開発を進め、実際の船舶で航海が可能な場合に実環境下での性能評価実験を実施する。海上での利用が想定されるいくつかの通信システムについて、そのシステムが通信に求める性能(例えば通信速度重視、通信可能距離重視、安定性重視等)を確保できる回線の選択や併用方式を精査し、取得した通信環境情報と照らし合わせて要求性能を達成できる条件を明らかにする。性能検証は実際の船舶上での実験により行うことを予定しているが、社会情勢面で厳しい場合は、これまでに取得している受信信号強度や通信速度の計測データから評価シナリオを作成し、評価用プロトタイプシステムを用いた評価実験を実施する。 (2) 通信環境計測実験の継続:本提案では、実際の通信環境データを用いる点が特徴であるとともに、そのデータ量が多重経路通信制御の制御指標として重要な意味を持つ。航行する船舶上での実験が可能な機会には、これまでに実施してきた計測実験を実施し、計測データ量の蓄積に務める。 (3) 機械学習を用いた海上における映像伝搬の通信速度抑制方式の性能検証と改善:令和2年度では、処理性能向上に関わる見直しを行った。令和3年度では、より処理性能を向上させ、少ないデータ量で十分な情報量をもった映像伝搬方式の実現に向けた方式改善を行い、その性能を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症により活動に制限が生じ、予定していた学会発表に関わる旅費の計上ができなかったことが次年度使用の生じた理由である。次年度使用に計上した金額については、社会情勢を鑑みながら、本来予定していた使途での利用を予定している。
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