研究課題/領域番号 |
19K11944
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
小畑 博靖 広島市立大学, 情報科学研究科, 准教授 (30364110)
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研究分担者 |
高野 知佐 広島市立大学, 情報科学研究科, 准教授 (60509058)
石田 賢治 広島市立大学, 情報科学研究科, 教授 (70221025)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 無線LAN / 通信品質 / 現象数理学 / モデル化 |
研究実績の概要 |
2019年度では、以下のように無線LAN通信品質のモデル化のための検討を実施した。 (1)無線LANマルチホップ環境における伝送レート利用率の変化を実機(Raspberry Pi)を用いて実験的に評価した。具体的に実験では、1ホップから4ホップまでホップ数を増やしつつ、かつ、ホップ間距離を変更した際の伝送レートの変化の様子を測定した。まず、ホップ間距離が長くなると低伝送レートを多く利用する確率が増えることを確認した。一方、ホップ数が増加すると、主に利用する伝送レートは通信開始時では高い伝送レートを利用する傾向があるが、時間が経過すると、ホップ毎に異なる低伝送レートに収束することを明らかにした。 (2)無線LANにおける重要な通信特性としてキャプチャ効果がある。キャプチャ効果とは、データの同時送信が発生したとしても受信電波強度が干渉波よりも十分大きければ正常に受信できる現象である。このキャプチャ効果が発生する環境では、端末間の距離に応じて同時送信による通信の成功確率が変動するため、伝送レートとスループットの変化に影響を与える。そこで、キャプチャ効果が発生する環境における無線LANメディアアクセス制御(MAC制御)の通信特性を評価した。その結果、キャプチャ効果に対応したMAC制御を用いると、端末間のスループット公平性が低下することを確認した。さらに、スループット公平性の低下を改善する改良方式の検討も行い、シミュレーションにより有効性を確認した。 (3)無線LANでは、持ち運び可能なアクセスポイント(移動AP)が利用されることが多い。このような移動AP環境における伝送レート利用率やスループットの変化を調査することは重要である。そこで、移動APが利用された環境における基本的なスループット特性を評価した結果、AP端末間距離によりスループットの低下する要因が変化することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、現象数理学の観点を用いて効率的かつ汎用性の高いWLAN通信品質のモデル化技術を実現するため、(1)実機を用いた基礎データの取得(2)実験データに基づくモデル検討(3)検討したモデルの検証、の3つのステップを設定して進める。初年度は、ステップ1としてモデル化のための基礎データ取得を主に実施した。特に、マルチホップ環境、キャプチャ効果の発生する環境、アクセスポイントが移動する環境に着目して実施した。得られた成果の一部は、IEEEの国際会議および電子情報通信学会の研究会等において発表しており、概ね計画通りに進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は以下のように研究を進める予定である。 まず、2019年度に引き続き、ステップ1の無線LAN環境における伝送レート利用率とスループットの変化の基礎データ取得を継続して実施する。前年度と同様にマルチホップ環境、キャプチャ効果が発生する環境、APや端末の移動を考慮した環境だけでなく、さらに様々な環境においてもデータの取得を目指す。ある程度十分なデータが取得できた後、ステップ2として、取得したデータと現象数理学のモデルを用いて伝送レート利用率の変化やスループット変化を示すモデルの検討を行う。まずは、事前に検討している移流拡散モデルを用いた伝送レート利用率の変化モデルを基にさらなる拡張を目指す。また、得られた成果の研究会および国際会議での発表や学術論文への投稿・掲載を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受けて、年度末に予定していた研究発表に伴う出張がすべて取りやめとなったことで、研究会参加のための旅費利用が無くなり予定していたよりも多くの次年度使用額が発生した。今年度は、引き続き新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受ける可能性があるが、計画通り実機実験や前年度に実施できなかった成果発表等を積極的に行い有効利用する予定である。
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