研究課題/領域番号 |
19K11956
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
静谷 啓樹 東北大学, データ駆動科学・AI教育研究センター, 教授 (50196383)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 耐量子問題 / 有限非可換群 / 計算量理論 |
研究実績の概要 |
本研究課題で検討している有限非可換群上の分解問題(以下、「分解問題」)について、その解が存在するかどうかの判定問題がNP内部の階層構造における低階層のレベル2に入ること、ならびに分解問題の解を実際に出力する計算問題において、分解する部分群の選びかたによっては決定性多項式時間で計算可能な場合が存在すること、これら2点が本研究でこれまでに判明している。 そこで次年度においては、計算問題の平均的な難しさを計測する指標の一つとして、分解問題のランダム自己帰着性を検討した。その結果、分解する部分群の選び方によらずランダム自己帰着性を有することが判明した。これにより、分解問題のインスタンスの無視できない大きさの部分集合が容易に計算可能なら、問題全体が容易に解けることが示される。したがってこれまでの結果と合わせると、分解問題を定義する群の大きさに対して、決定性多項式時間で問題が解けてしまうような部分群の大きさの比が焦点となる。また、そのような比が無視できるほど小さくなるような有限非可換群を選定することが必要であることも明らかになった。 なお、分解問題にはその顕著な性質として自己帰着性(auto-reducibility、ランダム自己帰着とは別の広い概念)を持つことも解明した。この性質は分解問題とは直接の関係がなさそうなグラフ上の問題や可換な有限群上の問題にも現れるため、これらに一貫する性質を今後、解明する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度はランダム自己帰着性に関する検討を進める予定であったので、その意味では計画どおりであるが、当年度内にその結果を公表できていない点で計画より遅れていると自己評価している。 今後、論文の出版に加えて、2021年度における主要テーマであるリフティングについての検討を行う。リフティングは研究代表者らが2008年に開発した技術で、量子計算機による攻撃が成功することが確実な暗号プリミティブを耐量子問題と見なせる難しさまで持ち上げる手法である。分解問題がその持ち上げに寄与できるかどうかの検討となる。
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今後の研究の推進方策 |
分解問題のランダム自己帰着性に関するいくつかの結果を公表するとともに、自己帰着性(auto-reducibility)を持つことの意味の解明も推進する。特にこの場合の自己帰着性は、群が作用する集合の軌道が問題のインスタンスになっていることから、問題の難しさが平坦な軌道なのかどうかまで解明できる可能性がある。 また、分解問題のリフティングの応用については、持ち上げる手段としての分解問題にどれだけの情報を載せられるかの検討から入り、それが可能と判れば、そこに載せるのに適した(耐量子ではない)暗号プリミティブを選定する作業を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究発表ないし資料収集等のため旅費のみを計上していたが、感染症の拡大に伴って出張が制限され、また学会等もオンラインでの開催が主となったため、旅費は執行できなかった。
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