本研究課題で検討している有限非可換群上の分解問題(以下、「分解問題」)には、その解が存在するかどうかの「判定問題」と、実際に分解問題の解を与える「計算問題」がある。これまでに、(1)判定問題に関して、NP内部の階層構造における低階層のレベル2に入ること、(2)計算問題に関して、分解する部分群の選びかたによっては決定性多項式時間で計算可能な場合が存在すること、(3)判定問題に関して、分解する部分群の選び方によらずランダム自己帰着性を有すること、(4)計算問題を関数ないし写像と見たとき、ランダム自己帰着性より広い概念である自己帰着性(auto-reducibility)を有すること、これら4点が本研究で判明している。 一方、上記(3)の性質は(2)のような部分群(本研究では「弱い部分群」と呼ぶ)の大きさによっては問題全体が易しい問題になってしまう可能性があるため、弱い部分群の特徴や構造の完全解明が急務となっていた。 そこで令和4年度における検討の結果、正規部分群であれば弱い部分群になることが明らかになった。これは本研究で対象としている分解問題の難しさに関するほとんど唯一の構造定理と思われ、分解問題の暗号系への運用の重要なガイドラインを与えるものである。また令和4年度には分解問題に対応する判定問題に関して、それが直接的に多対一帰着する(SATへの一般帰着ではなく帰着する)NP完全集合を発見した。これは、分解問題のNP内での位置づけを解明する結果である。
|