研究課題/領域番号 |
19K12000
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大西 有希 東京工業大学, 工学院, 助教 (20543747)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 平滑化有限要素法 / 微圧縮性材料 / 大変形解析 / 四面体要素 / ロッキング / 圧力チェッカーボーディング |
研究実績の概要 |
固体材料の超大変形解析を高精度かつロバストに解くための有限要素解析手法の研究を行った.実問題では固体材料は複雑形状をしていることが多く,形状を有限要素メッシュ分割する際には四面体が好まれる.圧縮性材料の大変形解析であれば,既存の高性能な10節点四面体(T10)要素(汎用有限要素解析ソフトABAQUSのC3D10M等)を用いれば実用上充分な精度でロバストに数値解を得ることが出来る.しかし,微圧縮大変形解析ではC3D10M等の高性能要素を用いても大変形ロバスト性が確保できず,変形早期に収束困難に陥ってしまう.材料の微圧縮性はゴムだけでなく金属の塑性加工や樹脂の熱粘弾性加工等にも現れ,一般的な材料加工において頻出する性質である.特にゴム材料は原型を留めない程の超大変形状態で使用される機会が多く,その数値解析手法の確立は重要な課題である.
研究代表者らはゴム超大変形解析においても精度とロバスト性に優れた有限要素定式化の研究を行ってきた.近年提案された平滑化有限要素法(S-FEM)に着目し,主に4節点四面体(T4)要素を用いたS-FEM定式化を開発してきた.しかし,T4要素を用いて開発したS-FEMは計算コストがやや高く,また既存の有限要素解析ソフトへの実装が困難という問題点があった.
そこで本研究課題ではT10要素を用いたS-FEM定式化の開発に取り組んでいる.研究代表者らは,昨年度にT10要素に選択的低減積分を適用したセルベース平滑化有限要素法(SelectiveCS-FEM-T10)を提案した.この定式化は上記の既存手法の問題点を全て解決している.本年度はこの定式化を正式に実装し,既存のT10要素とほぼ同等の計算速度で解析が可能であることを確認した.ただし,この定式化にはMises応力振動と名付けた精度低下が特定の超大変形問題で発生する欠点を有しており,その解決が課題となっている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請書に記載した研究実施計画では,本年度は有力な定式化候補を正式に実装し,最終的に最も優れた定式化1つに絞り込むことを目標としていた.上述の通り,幾つかの候補を正式に実装して計算速度が汎用有限要素解析ソフトのT10要素とほぼ同等であることは確認出来た.他方,定式化の絞り込みについては,前年度終わりの時点で既に最良手法であった定式化が現時点においても最良の定式化であるという評価結果となっている.すなわち,現時点での最良手法となる要素定式化は次の様な物である.
1)T10要素の6個の中間節点の平均位置にダミー節点を置く.2)ダミー節点を中心として,T10要素を16個の4節点四面体(T4)サブ要素へと放射状に再分割する.3)16個のT4サブ要素に対して要素内でエッジベース平滑化有限要素法(ES-FEM-T4)を適用し,各エッジの偏差応力を得る.4)16個のT4サブ要素の体積変化の平均を求め,要素代表値として静水圧応力を得る.5)選択的低減積分に基づき,各エッジの偏差応力と要素代表の静水圧応力の寄与を足し合わせることにより節点内力を得る.
選択的低減積分を採用することにより,体積ロッキングおよび圧力チェッカーボーディングの問題を回避している.T4サブ要素への要素再分割により,全て1次の形状関数を使用することから,節点反力振動の問題も回避している.加えて,放射状の要素再分割を行うことにより,全ての輪郭エッジに対してES-FEM-T4による歪み平滑化がかかり,大変形ロバスト性を向上させている.ただし,特定の超大変形問題においてMises応力に振動が現れる問題は解決されていない.なお,このMises応力振動は応力特異性の有無に関わらず一部の超大変形問題で発生することが分かっている.現在までにMises応力振動が生じる原因は未だ特定できていない.
|
今後の研究の推進方策 |
交付申請書に記載した研究実施計画では,来年度は提案要素の汎用有限要素解析ソフト等への実装を通じてその普及を目指すとしていた.しかしながら,上述の通り,Mises応力振動の問題が解決されておらず,またその原因すら特定されていない.来年度はこの状況に鑑み,提案要素の普及よりもMises応力振動の問題解決に注力する.Mises応力振動の問題は既に1年以上解決に到っていない難問であり,あと1年での解決は難しい恐れもある.そこで,様々な例題を提案要素で解析・評価することで,Mises応力振動の原因を特定することに充分な時間を割く方針である.
加えて,提案要素が純粋な変位型有限要素である利点を活かし,動的陽解法に提案要素を適用した際の性能評価も実施する.ゴム大変形で頻繁に使用される混合型(ハイブリッド型)要素は純粋な変位型有限要素では無いために動的陽解法に適用出来ないという大きな欠点を持つ.提案要素はその様な欠点を持たず動的陽解法にも適用可能であるため,提案要素の適用の裾野を広げることが出来る.モード解析による低エネルギーモードの有無の評価も行い,提案要素の動解析におけるエネルギー安定性についても検討を行う.
なお,Mises応力振動の原因を特定した結果として現状の方針ではMises応力振動の発生を抑えることが困難であることが判明することもあり得る.その場合はこれまでとは異なる開発方針を採り,要素をまたぐ歪み平滑化を行わないCS-FEMの採用を諦めることも検討する.具体的には,T4要素,T10要素,あるいはポリヘドラ要素を用いて偏差応力の計算に際して要素をまたぐ歪み平滑化の導入を検討する.CS-FEMでなくなることにより既存の有限要素解析ソフトに実装できなくなるデメリットは生ずるが,ソフトを自作すればこのデメリットは生じないため,精度とロバストの問題解決を優先し取り組む.
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス蔓延のため,参加予定の国際学会等が軒並み延期やオンライン開催に変更されたため,本年度使用額が予定よりも減少した.また,購入予定物品(計算機サーバー,メッシュ生成ソフト等)も在宅勤務では性能評価が難しく,購入を先送りしている.次年度も国際学会の現地参加は難しい情勢であることから,購入予定物品の評価を速やかに行って購入する予定である.
|