研究代表者はこれまでに,分子関連分野でのデータマイニングの応用可能性を検討するために基礎的な有機化合物の発火点の決定ルールを調査しており,学会発表の際に,融点と沸点についても調べることを勧められていた.そこで今年度は,基礎的な有機化合物の融点と沸点の決定ルールを調べた.使用したデータは以下のものである.まず分子量,炭素原子個数,酸素原子個数を使用する.さらに特徴的な構造であるベンゼン環,二重結合,三重結合,水酸基,アルデヒド基,カルボニル基,エステル結合,エーテル結合の個数を使用する. 融点をデータマイニングの手法の一つである決定木で調べた結果,ベンゼン環の有無が最も重要なルールであり,使用したデータの範囲では,ベンゼン環を持たない化合物の融点は平均ー58℃で,ベンゼン環を持つ化合物の融点は18℃で,76度の差異があった.さらにベンゼン環を持たない化合物では,分子量が59以下かどうかで70度程度の融点の差異があった.融点では化合物の特徴的な構造への依存性が高いことが示唆された.これは,融点では分子間力の影響が大きいことを示す可能性がある. 沸点を決定木で調べた結果,分子量が89程度以下かそれ以上かで110度の差異があり,さらに細かく分類するルールは分子量の大きさに関するものが上位にあったため,沸点では化合物の構造というよりは分子の大きさが強く影響することが示唆された. 今後は,引き続き分子関連分野でのデータマイニング応用事例を検討するとともに,新規物質探索支援システムの開発を行なっていきたい.
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