研究実績の概要 |
フラグメント分子軌道法FMOは、巨大分子系に適用可能な電子状態計算手法である。タンパク質や核酸などの生体高分子などに広く適用されている。またFMOを分子動力学法MDに応用したFMO-MD法は、溶媒中の低分子化合物の科学反応シミュレーションなどで、顕著な成果を挙げてきた。だが、FMO法もFMO-MD法も、ほとんど孤立系の計算に限られてきており、周期境界条件下では実用的な速度と精度で行うことはできなかった。そこで、本課題では、多重極展開を用いて、FMOへの周期境界を導入することにした。 2019年度は、以下のように準備を行った。まず、非周期境界FMOに多重極展開を導入し、それを利用してFMO-MD計算ができることを確認した。さらに、FMOにすでに導入されていた高速な近似法のCholesky decomposition with an adaptive metric (CDAM)を改良して、必要なメモリーサイズを下げることに成功し、巨大系への実用計算が可能になった(Nakano et al., 投稿準備中)。これを周期境界に導入するためには、古典MDで広く使われている、ツリー法を用いて、FMOのフラグメント群の多重極モーメントを計算することが必要になる。今年度は、その計算のためのサブルーチン類を整備した。 なお、関連研究として、非周期境界でのアンモニアクラスターのFMO-MD計算を行い、振動状態などを明らかにした(Ninomiya et al,., 2020)。加えて、新型コロナウィルスのメインプロテアーゼの電子状態をFMO法で計算し、基質との相互作用解析を行った(Hatada et al., 投稿中)。
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