研究実績の概要 |
フラグメント分子軌道法FMOは、巨大分子系に適用可能な電子状態計算手法である。タンパク質や核酸などの生体高分子などに広く適用されている。またFMOを分子動力学法MDに応用したFMO-MD法は、溶媒中の低分子化合物の科学反応シミュレーションなどで、顕著な成果を挙げてきた。 2020年度は、非周期境界FMOに多重極展開(CMM)を導入し、さらに高速な近似法のCholesky decomposition with an adaptive metric (CDAM)を改良して、必要なメモリーサイズを下げることに成功した(Okiyama et al., 2021)。現在、CDAMとCMMを利用したFMO-MDのテスト計算を、水とペプチド系に対して行っている。 一方、FMO-MD法の近似法である、MM-MD/FMOプロトコールを用いて、新型コロナウィルスのメインプロテアーゼやスパイクの電子状態計算を行い、ダイナミクスや基質相互作用を解析した。MM-MD/FMOプロトコールは、FMO-MDの直接対象としては大きすぎる分子系の電子状態ダイナミクスの計算方法で、古典MM-MDで構造をサンプルしてそれに対して、FMOによる量子電子状態計算を行うことで、熱揺らぎの効果を採り入れる(Komeiji & Ishikawa, 2021)。今回、メインプロテアーゼの基質結合の動的状態や(Hatada et al., 2020, 2021)、スパイクタンパク質の受容体認識に関与するアミノ酸残基などを解析し(Akisawa et al., 2021)、新型コロナに関する、生化学的知見を得ることができた。これらの計算は、富岳など国内のスーパーコンピューターで得られたもので、生体分子の電子状態計算としては、世界最高規模のものである。
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