前年度まではホログラムによる光学的情報処理と、電子計算機で実装されたニューラルネットワークを組み合わせた立体構造の判別システムを検討していた。対象物は平坦な物体表面の細い線条構造で、その凹凸を判別するものであった。本年度は電子計算機側の演算量をさらに少なくし、システム全体の電力消費を抑えることを目的として、ホログラムによる新たな情報処理の方法を検討した。まず、いくつかの試料(教師データ)を用意して、凹凸を正しく判別できるように線形判別分析を行った。この演算と等価な処理を光の伝播・回折現象で実現できるようにホログラムを設計した。一般的な線形判別分析に対し、決定境界円の定義やその求め方など、いくつかの独自の改良を行い、ホログラム透過後の光が観測点に生成するスポットの明るさから、凹凸の判別結果が得られるようなシステムを設計できた。この時、電子計算機側での必要な処理は、観測点の明るさが閾値を超えているかの大小比較だけでよく、多数の演算を必要とするニューラルネットワークを使用することなく正確な凹凸判別ができることを示した。次に、対象の構造を点状の微細欠陥に換えて同様の設計を行った。点状の微細欠陥はガラスや半導体表面にしばしば現れる欠け(ディグ)または微粒子の付着などで、半導体素子などの製品の品質に悪影響を及ぼす欠陥として知られている。ホログラムを設計し、判別シミュレーションを行ったところ、この試料についても高い精度(判別システムの出力に20%以下のノイズが加わった場合の判別誤差が10%未満)で判別できることを示した。当初計画していたホログラム以外に、本研究を通してサポートベクターマシンを応用し、少ない教師データでホログラムを設計できる手法や、演算能力をさらに高めたフォトンシーブホログラムのアイディアも出ており、光を利用したより高度な知覚情報処理の可能性も見出している。
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