研究課題/領域番号 |
19K12022
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
入部 百合絵 愛知県立大学, 情報科学部, 准教授 (40397500)
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研究分担者 |
北岡 教英 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10333501)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 認知症傾向検出 / 高齢者 / 対話データベース |
研究実績の概要 |
本研究は日常会話音声から効果的に認知症傾向を検出することを目的としている.研究初年度は全国3か所の高齢者施設において対話音声を収集するとともに,収集した音声の書き起こし,音素アライメントの抽出,音声セグメントの切り出し,属性情報の付与など,対話音声データベースの構築に注力した. 2年目はコロナ下のため対話音声の収集は一旦停止させ,1年目に収集した対話音声の分析を実施した.まず,認知症に関わる音響言語特徴を明らかにするとともに,過去に収録した名古屋と徳島の対話音声に含まれる方言の違いについて分析した. その結果,音素単位で抽出した音響的特徴については,無音区間,子音と母音のわたり部分と子音の立ち上がり部分のΔパワー/パワー高低差/Δピッチ,MFCC,ΔMFCCなどの64次元に,文単位で抽出した音響的特徴についてはポーズとパワーの変動係数に,認知症傾向有無間で有意な差が認められた.その他にも,また,認知症傾向有無の識別を行った 結果,名古屋と徳島の音声をそれぞれ分けて識別した結果と比較し,両群の音声データを統合して識別すると,識別精度が低下することが明らかとなった.そこで,名古屋と徳島の音声の異なる点の一つである方言に着目をし,方言による音響言語特徴の違いを分析した.その結果をもとに,方言の違いを考慮した認知症傾向の識別手法を提案し,考慮しない場合の識別結果は75.9%であるのに対し,音響的特徴に対して方言の違いを考慮することで約 15%の精度向上が確認された. これらの研究成果を,国際会議および国内学会にて発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,認知症傾向を捉えるのに有用な対話音声に含まれる音響的・言語的情報を明らかにすることであり,2020年度は初年度に収集した音声に対し,音響情報を分析することを目標としていた.それに対し,認知症傾向に関連する複数の音響的特徴を選定し,認知症傾向有無間で比較分析することで,それらの違いを示す有用な音響情報を明らかにすることができた.また,方言による違いが認知症傾向判別に悪影響を及ぼすことを示すなど,音響面での認知症傾向の特徴を捉えることができた. 従って,おおむね計画通りに進んでいると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に実施した音響的特徴の分析を継続するとともに,2021年度は言語的側面についても分析を行う.具体的には,①語彙量の豊富さや,用いる語彙の難度を定量化する.また,対話中に含まれる固有名詞,一般名詞の割合を数値化することで認知症傾向の有無を判別する.一方で,語彙量を示す指標で広く知られるものとして,TTR(Type Token Rate),日本語語彙レベルなどが挙げられる.一方で,認知症に罹患すると代名詞を多く用いるようになることは,症状の一つとして明らかになっている.そのため,②発話中に含まれる代名詞の割合を数値化することで,短い対話中であっても同様の傾向が現れるかを検証する.加えて,前述した言語流暢性の低下や取り繕い反応などの影響によりフィラーの割合が多くなると予想されるため,③発話中に含まれるフィラーの割合を算出し,認知症傾向との関係性を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響により,国際会議や国内学会がオンライン開催となったため,旅費の支出が予定よりも少なかったことが理由として挙げられる. 今年度も旅費の支出は少ないと予想されるが,研究成果を積極的に発表するため,学会参加費や論文投稿費などの支出額が増える見込みである.
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