研究課題/領域番号 |
19K12048
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
竹本 浩典 千葉工業大学, 先進工学部, 教授 (40374102)
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研究分担者 |
榊原 健一 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 准教授 (80396168)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 横隔膜 / 声道 / 声帯 / オペラ歌唱 / MRI |
研究実績の概要 |
今年度は、予備実験として、プロの男性オペラ歌手1名(以下プロ)と声楽を学んでいる学生1名(以下アマ)を用いて、歌唱中の胸腹部と頭頸部のリアルタイムMRI撮像を行った。得られた動画から、横隔膜の上下動や軟口蓋の開閉などをカイモグラフで抽出し、各部の運動タイミングなどを分析してプロとアマで比較した。その結果、プロでは音高に応じて横隔膜の上昇量を細かく制御する一方で胸郭は単調に収縮させていたが、アマでは逆に音高に応じて胸郭の収縮量を細かく制御し、横隔膜は単調に上昇させていた。これは、プロでは横隔膜の制御を意識し、アマでは胸郭の制御を意識していることを示唆すると考えられる。また、プロでは高音域で軟口蓋をやや下降させて鼻腔への経路をわずかに開いていることが明らかになった。高音域では声帯振動は声道からの反射波の影響を強く受けるようになるので、この動作は鼻腔からの反射波を意図的に利用していることを示すと考えられる。 また、横隔膜などの変位による呼気流の変化が音声に与える影響を時間領域でシミュレーションするために、時間領域差分法に基づく1次元の声道音響モデルを改良して、声道壁の振動を考慮できるようにした。声道壁の振動は声道の第1共鳴の周波数を知覚上無視できないほど上昇させることが知られている。そこで、声道壁を簡単なバネ質量系でモデル化し、その運動方程式をシミュレーションステップごとに解くことで壁振動を表現した。その結果、壁振動を導入することで声道の第1共鳴周波数が先行研究と同程度上昇することを確認した。これにより、シミュレーションの精度が向上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、プロとアマで横隔膜や喉頭の制御技術に差が生じやすいと思われる5度跳躍進行などの歌唱タスクを考案し、予備実験としてプロとアマ1名ずつを用いてMRI実験を実施した。そして、動画の分析方法を検討した後、カイモグラフを用いて横隔膜や胸郭の変位を分析し、プロは横隔膜を、アマは胸郭をそれぞれ意識的に制御しているという結果を得た。さらに、呼気流の制御が音声に与える影響を時間領域でシミュレーションするモデルに壁振動を導入し、シミュレーションの精度を向上させた。しかし、MRI実験の際に同時録音した音声は、予想以上に装置雑音が大きいため、スペクトル分析などの定量的な評価は困難であり、現在のところ印象評価などの定性的な評価にとどまっている。よって、ほぼ研究計画通りに進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では、次年度は、今年度決定した歌唱タスクを用いて、女性を含めたより多くの被験者(6名)で実験を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルスによる影響で、MRI実験を実施する施設(ATR-Promotions)の利用が制限(1コマ当たりの被験者数の削減)されることとなったため、予定したよりも少ない被験者(2~4名)でしか実験ができないと予想される。そこで、実験を進める一方、これまで予備実験で得られた2名の被験者のデータをより詳細に分析する。例えば、吸気から発声開始までの下腹部、横隔膜、胸郭の変位をフレームごとに比較検討することにより、吸気から発声までの運動機序を明らかにする。また、動画における肺の面積の変化から呼気流の変動量を推定し、発声のシミュレーションを試みる。さらに、今年度の予備的な分析で、プロは高音域で下咽頭が前後方向に拡張する傾向があることが明らかになったので、これを他の発声タスクでも確認する。そして、下咽頭腔を拡大することがどのような音響的効果をもたらすかについてもモデルを用いたシミュレーションで検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスにより、日本音響学会2020年春季研究発表会が中止となり、旅費が浮いたため、次年度使用額が生じた。これは次年度に予定しているMRI実験で使用する計画である。
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