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2021 年度 実施状況報告書

オペラ歌唱における声道と横隔膜の制御に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K12048
研究機関千葉工業大学

研究代表者

竹本 浩典  千葉工業大学, 先進工学部, 教授 (40374102)

研究分担者 榊原 健一  北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 准教授 (80396168)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワードオペラ歌唱 / rtMRI / 横隔膜 / 肺 / 声道
研究実績の概要

2021年度は,歌唱中のプロのオペラ歌手2名の声道形状と横隔膜の運動をリアルタイムMRI(rtMRI)で撮像し,2020年度までに撮像したデータとともに分析した。
まず,テノールとバリトンが音高と歌唱方法の変化を含む歌唱課題を行った際の発話運動をrtMRIで撮像した。音高の変化とはそれぞれ5度離れた低音-高音-低音を母音/a/で歌唱することとし,歌唱方法の変化とは声楽的・非声楽的発声を意図的に使い分けて歌唱することとした。得られた動画の各フレームから発話器官の輪郭を機械学習で抽出し,その変動を主成分分析した。その結果,第1主成分は主として/a/の口の構えに伴う運動,第2主成分は主として音高の制御に伴う運動,第3主成分は主として吸気に伴う運動であった。なお,声楽的な発声や非声楽的な発声を特徴づける運動はこれらの各主成分にまたがって観察された。
次に,2020年度に発見した,高音から低音に移行する際に用いられる「支え直す」技術に伴って矢状断面における肺の面積が主に横隔膜の下降によって一時的に増加する現象の解明に取り組んだ。まず,この一時的な肺の面積の増加は冠状断面でも見られることを確認した。これは高音から低音に移行する際に,肺の容積が一時的に増加することを示している。次に,テノール,バリトンの動画データを用いて,肺の容積は断面積の3/2乗に比例し,肺の中の空気は圧縮性流体であるとして肺圧をシミュレーションした。その結果,この肺の容積の一時的な増加は吸気に至るほどではないが呼気圧を大きく減少させることが明らかになった。これは,「支え直し」とは,高音で必要な高い肺圧から,低音で必要な低い肺圧へ歌唱しながら急減圧するための身体操作であることを示唆する。なお,音声波形でも高音から低音へ移行する際に一時的に振幅が減少しており,この急減圧を裏付けていると思われる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

データの取得は遅れているが,解析は順調に進展している。当初,連続した2コマで3人の被験者を撮像することを年に2度行い,年間で合計6人の被験者のデータを取得する予定であった。しかし,実験を行うATR-Promotionsは,新型コロナ対策として1コマに1人の撮像しか許可しなくなったこと,および被験者の実験途中のキャンセルと緊急事態宣言による実験中止の影響で2021年度は2人の撮像しか行うことができなかった。しかし,その間,得られた動画から声道や肺の輪郭を点群として抽出し,形状の時間変化を主成分分析する技術開発を行ったため,歌唱に伴う体内運動をより深く検討することが可能になった。
また,2021年度は所期の目的であった,rtMRIの動画データから呼気流量と肺圧を推定する手法を提案することができた。従来の研究では,肺の中の空気は非圧縮性流体であると仮定していたため,歌唱中のわずかな肺の容積の増加は吸気を生じさせた。しかし提案手法では,肺の中の空気を圧縮性流体として扱うことが可能になったため,肺の容積のわずかな増加は吸気ではなく肺圧の低下を生じさせた。これにより,オペラ歌手が用いる「支え直し」という歌唱技術は,空気の圧縮性を利用して,音高に適した肺圧を制御する技術であることを明らかにすることができた。これは予想以上の成果であった。
よって,進捗状況はおおむね順調であるといえる。

今後の研究の推進方策

2022年度は,まず2021年度に新型コロナによる緊急事態宣言で中止となったMRI撮像実験を実施してデータを収集する。その際に,それぞれ5度離れた低音-高音-低音を母音/a/で歌唱する際にポルタメントを指示したタスクを追加する。ポルタメントとは,ある音から別の音に移行する際に,滑らかに音程を変化させる歌唱技法である。これにより,高音から低音へ急激に移行する場合にみられる一時的に横隔膜を下降させて肺の容積を増加させる「支え直す」技術がどのように変化するかを検討する。
次に,動画から推定した肺圧の変化と,これまでに開発した時間領域の声道モデルによりオペラ発声をシミュレートする。推定した肺圧は,高音から低音に移行する際に急激に減少し,その後再び緩やかに増加した。このような肺圧の変化が音高の移行にどのような聴覚的な影響を与えるかを検討する。さらに,すでに得られている声楽的な発声と非声楽的な発声の口腔形状の変化から推定したフォルマント同調や歌唱フォルマントの効果を付加した発声のシミュレーションを試みる。

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍により,日本音響学会2021年秋季研究発表会および2022年春季研究発表会が共にオンライン開催となり,旅費が浮いた。また,緊急事態宣言によってMRI実験が2コマ中止となったため,次年度使用額が生じた。これらは2022年度にMRI実験で使用する予定である。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (4件) 学会発表 (4件)

  • [雑誌論文] 音高変化におけるオペラ歌唱技術の検討2022

    • 著者名/発表者名
      戸田菜月,竹本浩典,高橋純,足立整治
    • 雑誌名

      日本音響学会講演論文集

      巻: 2022年3月 ページ: 825-826

  • [雑誌論文] オペラ歌唱における音高と声道形状に関する検討2021

    • 著者名/発表者名
      戸田菜月,竹本浩典,高橋純
    • 雑誌名

      日本音響学会講演論文集

      巻: 2021年9月 ページ: 821-822

  • [雑誌論文] 鼻副鼻腔の模擬手術が伝達関数に及ぼす影響2021

    • 著者名/発表者名
      杉浦唯,竹本浩典,北村達也,内尾紀彦,鴻信義
    • 雑誌名

      日本音響学会講演論文集

      巻: 2021年9月 ページ: 799-800

  • [雑誌論文] リアルタイムMRIに基づくオペラ歌唱の声量の制御に関する研究2021

    • 著者名/発表者名
      高橋純,幸実優,佐々木香諒,戸田菜月,竹本浩典
    • 雑誌名

      音楽音響研究会資料

      巻: 40 ページ: 7-10

  • [学会発表] 音高変化におけるオペラ歌唱技術の検討2022

    • 著者名/発表者名
      戸田菜月,竹本浩典,高橋純,足立整治
    • 学会等名
      日本音響学会 2022年春季研究発表会
  • [学会発表] オペラ歌唱における音高と声道形状に関する検討2021

    • 著者名/発表者名
      戸田菜月,竹本浩典,高橋純
    • 学会等名
      日本音響学会 2021年秋季研究発表会
  • [学会発表] 鼻副鼻腔の模擬手術が伝達関数に及ぼす影響2021

    • 著者名/発表者名
      杉浦唯,竹本浩典,北村達也,内尾紀彦,鴻信義
    • 学会等名
      日本音響学会 2021年秋季研究発表会
  • [学会発表] リアルタイムMRIに基づくオペラ歌唱の声量の制御に関する研究2021

    • 著者名/発表者名
      高橋純,幸実優,佐々木香諒,戸田菜月,竹本浩典
    • 学会等名
      音楽音響研究会

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公開日: 2022-12-28  

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