研究課題/領域番号 |
19K12056
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研究機関 | 大阪産業大学 |
研究代表者 |
高橋 徹 大阪産業大学, デザイン工学部, 教授 (30419494)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロホンアレイ / 音源定位 / 骨伝導イヤホン / 雑音環境 / 極小音 |
研究実績の概要 |
極小音を音源とする移動音源を追跡する新しい手法を提案した。音源がマイクロホンアレイから遠ざかるほど受信音量は小さくなる。特に3mを超えると、極小音として観測しなければならない。従来のマイクロホンアレイ処理が想定する収音範囲は、1.5~3m程度であった。そこで3m間隔で3つのマイクロホンアレイを配置し、音源が1つのマイクロホンアレイがから遠ざかっても他のマイクロホンに近づく環境を構築し、音源近傍のマイクロホンを自動的に選択し、それらを協調させて音源を処理することで極小音を扱う仕組みを提案した。現在、音源定位の性能改善を確認している。今後、音源分離性能の客観評価を進める予定である。 その他、人が極小音を知覚する能力を調査した。ヘッドホンによる聴取能力と骨伝導イヤホンによる能力を比較することによって、極小音の聞き取り能力に差があるか確認した。人が雑音環境下で極小音を聞き取る能力について調査を進めることができた。白色雑音下でのヘッド音提示音の聞き取りおよび骨伝導イヤホンによる提示音の聞き取りについて調査した。中程度の雑音下では骨伝導イヤホンによる聞き取り能力が、ヘッドホン提示より高いことを確認できた。この結果を、保育園業務支援に役立てるため、研究代表者が開発している保育士への情報提示システムの音情報提示部を骨伝導イヤホンに置き換えることを検討した。保育園児の預かり部屋の雑音環境下では、骨伝導イヤホンよりもヘッドホン提示音が聞き取りやすいことが示された。大きな音の陰に隠れてしまう小さい音情報を人間に知覚させるには、提示音声の言語情報を保存しつつ雑音に埋もれない処理の必要性を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人の聴力を元に極小音を定義すると最小可聴音量が基準になる。これは雑音がない場合の基準である。現実には、雑音がある場合を考える必要性がある。本研究で確認したい点は、雑音に埋もれた音をどのように収音すればよいかということである。これまで、多チャンネル再生と多チャンネル録音を同時に実現できる実験環境を整備してきた。2019年度に開発した1台の計算機上に最大8マイクロホン素子で同時録音可能な装置を拡張し、最大8マイクロホン素子および最大8スピーカーにて録音と再生を同時に可能な装置を開発した。これらの装置を非同期に接続するシミュレーション環境と実験環境を用意した。 これらの環境を用い、実際に人を対象として雑音環境課で聞き取れる音量を調査し、収音技術で補うべき音量、すなわち極小音として扱うべき音源の特徴を明らかにするフェーズに移行できた。 2020年度までに音源定位手法を提案できたため、2022年度は音源分離手法を提案し、分離音の精度の評価を行う。 客観評価に若干の遅れがあるものの、計画時点で想定していなかった人による極小音の評価を進めることができた。また保育園支援業務へ知見を応用取組も進めることができた。総合的には概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
極小音の音源分離手法を開発し、音源定位・音源分離性能の客観評価を進める。これらは、概ね10m四方の範囲を収音範囲と想定してシミュレーション環境とスピーカー・マイクロホンアレイを実際に使用した模擬環境の2つの環境で評価する。狭い範囲での評価に限定せず、極小音を扱える範囲の拡大を目指す。分散配置マイクロホンアレイの同期処理やネットワーク連携手法についての検討へ展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で学会等がオンライン開催に変更になり研究成果公表に掛かる旅費が減少した。また、調達予定であった消耗品(スピーカー・マイクロホン)の流通が滞り、入手に時間がかかったため、入手可能になり次第順次調達する計画である。
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