研究課題/領域番号 |
19K12072
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
坂内 祐一 神奈川工科大学, 情報学部, 教授 (70622124)
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研究分担者 |
服部 元史 神奈川工科大学, 情報学部, 教授 (00252792)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 嗅覚ディスプレイ / 圧電素子 / 心理物理実験 / 嗅覚知覚 / 閾値 |
研究実績の概要 |
本研究では、プリンタのインクジェットエンジンを利用した嗅覚ディスプレイの問題点である複雑な機構とメインテナンスの困難さの解決を図るべく、より単純なメカニズムである圧電素子を用いた液滴射出エンジンの嗅覚ディスプレイを開発することを目的としている。初年度、直径1センチ程度の圧電素子に微細な孔を多数設け、これを振動させることにより、圧電素子上部のタンクに格納されている香料の微細な液滴が吐出される圧電素子エンジンで、インクジェットエンジンの機能を代替できることが示された。試作の過程で、香料の表面張力が小さいと圧電素子の孔から液漏れを起こすこと、香料の粘度が高くなると1回の振動あたりの射出量が減少し、孔の目詰まりが起こり易くなることなど、圧電素子の孔径と香料の物性との関係が判明し、香料液調整のための知見が得られた。 嗅覚ディスプレイ筐体の設計に関しては、香気を運ぶ空気路で香気流が乱流を起こさず、一様な風速分布の層流となるようにファンの位置や風の流れを考慮した。この試作機の香気流を粒子法シミュレーションにより解析した結果、圧電素子カートリッジからの香気流が、対流を起こして留まる場所があることや、空気路中で垂直および水平方向に偏る傾向が見られた。そのためディスプレイの射出エンジン部分と射出口付近の空気路の設計変更が必要である。今後とも形状を検討する際に、粒子法シミュレーション結果をフィードバックしていく。 また、試作機を用いて香りの検知閾値を求める主観評価実験を行った結果、インクジェット方式ディスプレイに比べて被験者ごとの評価値のばらつきが小さく、より高い精度で計測が行えることが示唆された。以上述べたことから、圧電素子方式嗅覚ディスプレイは、インクジェット方式と同等の性能を保ちながら、インクジェット方式の問題点を解決できる可能性が示されたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①圧電素子を用いた香料射出ユニットの射出動作確認:小型圧電素子の上に香料タンクを置いて一体化した圧電素子射出ユニットを試作し、PCからインタフェースボックスを介して振動させ、継続的に液滴が噴霧され、また純水と香料液とを用いて、タンク内の溶液量によらず単位時間当たりの射出量が一定であることが確認できた。しかしながら香料の表面張力が小さい場合、圧電素子が静止状態でも孔から液漏れが生じることがあったが、香料の成分調整を変えることで解決できている。 ②嗅覚ディスプレイ筐体設計:香料射出ユニットから射出された微細な香料の液滴を、空気流により気化させてユーザの鼻先まで到達させるためのディスプレイ筐体の設計を行った。空気流を生成するためのファン取り付けの向きを、机上設置面に対して水平にし、生成された空気流を90度屈折させるようにし、さらに圧電素子射出ユニットの手前にメッシュを挿入して、空気流が一様な層流状態になるようにした試作機を完成した。 ③嗅覚ディスプレイの香気流シミュレーション:上記の試作機の3次元モデルを用い、Windows 10のPCでPrometech Particleworks 6.2 による粒子法の計算を行ったシミュレーションの結果、カートリッジ下部に香気流の渦が生じることと、空気路の断面において、香気流の分布が偏る傾向が示された、 以上、試作が順調に完了し、シミュレーションにより問題点が明らかになったので、次回の設計変更に反映させ、改良を重ねていく。
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今後の研究の推進方策 |
試作した圧電素子を用いた香料噴霧カートリッジの射出性能については、使用した香料については問題なく調整でき安定した射出が確認できたが、物性の異なる多くの香料について射出性能を調べる必要がある。 嗅覚ディスプレイの筐体については、粒子法シミュレーションの結果、空気路において香気の流れが一様でない部分があることが判明したため、空気路形状を変更して、再びシミュレーションを行って設計の最適化を図り、次期試作機を製作する。 また液滴噴霧型嗅覚ディスプレイの特長であるパルス射出について、香気流がどのようにユーザの鼻孔に到達するのか明らかでなかったが、粒子法のシミュレーションにより香りパルスの変形が確認できた。また香りパルスの射出間隔が短い場合に 前の射出の影響が残る可能性があることが分かったので、今後より正確な条件でのシミュレーションを行い検討していくことなどが今後の課題である。これらの成果をまとめた上で、次年度ウェアラブル嗅覚ディスプレイの設計を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
香気の流れのシミュレーションの能率を上げるために購入を予定していたPCの発注が4月以降になったため、残額が生じた。
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