我々の研究目的は,雑談型対話システムにおいて会話の流れを戦略的に捉え,相手の話す内容を誘導するように会話を進め,相手の興味を推察できるように情報収集を進める手法を検討し対話システム上での実装を試みることである. 相手の本心を知ることで,相手を満足させるサービスの実現を目指す.要点は人工対話による雑談において話題をユーザごとにカスタマイズするための情報収集の困難さを解消することにある.具体的には雑談型対話に有用な情報支援技術,対話戦術のモデル化手法,対話者情報の収集方法,対話エンジンとインターフェイスなどの確立,実装を行う. 本研究では大きく分けて2つのテーマについて着手した.一つは人工対話での雑談の内容から対話者の属性を推定する技術である.令和1,2年度では対話内に含まれる歴史的な事象からその発生日時を変換するイベント履歴収集システムの提案,LINEやChatwork上などで使用可能な雑談生成機構と人間関係図を生成システムの構築,最終年度では対話中の文面から感情を推定するための辞書の拡張が可能な感情分析ライブラリの構築を行った.迂遠な対話の中に含まれる事象から対話者の年齢の推定やグループ内での人間関係の推定が可能であることを示した. もう一つは,コンピュータシステムと人間との対話において必要となる対話者(人間)の周辺情報を入手する技術である.令和1,2年度では似た音声に対しての深層学習を用いた人物の識別の精度に関する研究,物体の位置と音声出力との協調に関する研究を行い,最終年度では全天球カメラを2台利用した全周囲の距離推定を行うための基礎技術の検討を行った.既存のカメラやマイク,スピーカを用いることでコンピュータの視覚や聴覚に高い認識力を持たせることが可能であることを示した. 本研究により対話システムが対話者の情報をより多く得ることでより柔軟な対話ができることが期待できる.
|