研究課題/領域番号 |
19K12076
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
細野 美奈子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究員 (70647974)
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研究分担者 |
井野 秀一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 副研究部門長 (70250511)
中村 優美子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 副研究部門長 (50357670)
榊 浩司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究グループ長 (20392615)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水素吸蔵合金 / ジャッキアップツール / ソフトアクチュエータ / 災害救助 / 無電力駆動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、水素吸蔵合金(以下、MH合金)を圧力源としたアクチュエータ(以下、MHアクチュエータ)を用いた、電力供給や人力による反復動作がなくとも駆動可能な災害時レスキュー用のジャッキアップツールの開発である。研究の1年目では、ジャッキアップツールのエンドエフェクタの検討に取り組んだ。これまでの水素-油圧変換機構を用いたジャッキアップツールでは、市販の油圧エンドエフェクタ自体の厚みが50 mm、重さも1 kgを超えており、持ち運びや設置時に高齢者にとって負担になりかねない重さや大きさであった。これに対し、本研究ではアルミラミネートフィルムをはじめとする高分子材料を、エンドエフェクタを構成する材料として検討した。検討事項は、強度や水素ガスのバリア性とした。その結果、プラスチックファイバークロス補強ゴムを採用した市販のエアジャッキで使用されているエアバッグパートが、強度が高く、また、ジャッキアップツールとしては十分な水素ガスバリア性を持つことが確認できた。そこで、このエアバッグと、MH合金LaNi4.45Co0.5Mn0.05を用いてプロトタイプとなるジャッキアップツールを試作した。LaNi4.45Co0.5Mn0.05は比較的容易に活性化しやすく、吸蔵・放出平衡圧力のヒステリシスが小さい、吸蔵・放出平衡圧力が幅広いプラトーを持つなどMHアクチュエータとしての利用に適した特徴を持つMH合金である。実験では、恒温水槽を用いてMH合金を封入した容器を加熱し、100 kgの重りのジャッキアップを行った。実験の結果、試作したジャッキアップツールは設計通りに100 kgの重りを50 mmの高さまで持ち上げられることを確認した。さらに、その所要時間は、加熱温度を50℃から80℃まで変化させると1/5以上短縮できることが示された。これらの研究成果は水素エネルギ―に関わる国内学会にて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、MHアクチュエータを用いて、身体への負担が軽く扱える無電力駆動型の災害救助用ジャッキアップツールの開発を目指している。また、災害時の自助・共助を支援するため、高齢者などの要配慮者をはじめとする災害弱者となりやすい世帯や、集合住宅や学校など繰り返し使用が予想される環境下でも使えるように、ジャッキアップツールはノンプロフェッショナルでも取り扱いやすい大きさ、重さ、サイズの実現を目指す。そのために、まずはジャッキアップツールのエンドエフェクタの設計に取り掛かった。MHアクチュエータのエンドエフェクタには、水素ガスに対する高いバリア性が必要とされる。そこで本研究では、ジャッキアップツールに適したエンドエフェクタ材料を検討するため、アルミラミネートフィルムなど、高いガスバリア性がある複数の高分子材料に対し、引張強度試験や水素ガス封入時のリークチェックなどを実施した。その結果、市販のエアジャッキで用いられている、プラスチックファイバークロス補強ゴム材料が最も高い引張強度を持ち、また水素ガスを封入した上で100 kgの重りを載せても3日間以上保持できるほど、十分なガスバリア性を持つことが確認できた。そこで、この材料を用いたバッグをエンドエフェクタ、MH合金LaNi4.45Co0.5Mn0.05を圧力源としてプロトタイプとなるジャッキアップツールを試作し、100 kgのジャッキアップ実験を実施した。その結果、試作したジャッキアップツールは50℃から80℃程度の加熱で100 kgの重りを50 mmジャッキアップできることを確認した。また、その所要時間は50℃で約400秒、80℃で約60秒ほどであった。そのため、ポットの残り湯やホッカイロなど、日常生活で容易に手に入る熱源を用いればジャッキアップツールを駆動できる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1年目でジャッキアップツールのエンドエフェクタの候補を検討し、プロトタイプを試作することができたため、今後はジャッキアップツールの圧力源として使用するMH合金の種類について検討する。現在用いているLaNi4.45Co0.5Mn0.05は活性化が比較的容易であり、100回以上繰り返し使用しても水素吸蔵量が大きく変わらない優れた耐久性を持つ。一方で、レアメタルであるLaを使用しているため、ジャッキアップツールの圧力源として用いるには実用化を考慮すると価格設定のボトルネックになりうる。そのため、LaNi4.45Co0.5Mn0.05と同程度以上の耐久性を持ち、かつ同様に吸蔵・放出平衡圧力のヒステリシスが小さい、吸蔵・放出平衡圧力が幅広いプラトーを持つ、活性化しやすい、といった特徴を持つ、高価な金属材料を使用しないMH合金の組成を検討していく。また、試作ジャッキアップツールを用いて、圧力源としての性能も比較・検討していく。 一方、1年目の研究の結果、加熱温度の違いがジャッキアップツールの応答速度に大きな影響を与えることが確認された。具体的には、加熱温度があがるほど応答速度が速くなり、100 kgの重りを50 mmの高さまでジャッキアップするのに必要な時間が短縮され、50℃加熱時と80℃加熱時では1/6以上も時間が短縮された。これは、LaNi4.45Co0.5Mn0.05の水素放出時の平衡水素圧の違いが要因と考えられる。そこで、2年目以降はこのMH合金の温度―圧力特性がジャッキアップツールの応答特性、特に応答速度に与える影響を検討・評価する。得られた結果をもとに、熱伝達性の観点も取り入れたジャッキアップツールの設計・試作に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、ジャッキアップツールの応答特性にMH合金の温度―圧力特性が与える影響が当初の予測よりも大きかったことが挙げられる。わずか30℃の加熱温度の違いで、実質6倍もジャッキアップツールの応答速度が向上することが実験により示唆された。これにより、ジャッキアップツールの設計、特に合金封入部において熱伝達率を主とする熱特性を考慮する必要性が生じた。そのため、ステンレス、銅など異なる熱伝達率を持つ材料を用いた合金容器を設計・試作し、熱応答特性の比較と検証を行うこととした。また、使用する合金量を増やすほど応答速度が向上することが分かっているため、ジャッキアップツールに適した合金封入量も同時に検討する必要がある。そのため、次年度使用額を用いてこれらの実験で必要とされる、比較と検証用の機器や容器の製作、実験系の構築の経費に充てることとしたい。
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