研究課題/領域番号 |
19K12090
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉田 直人 名古屋大学, 未来社会創造機構, 特任助教 (40836714)
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研究分担者 |
黄 宏軒 福知山公立大学, 情報学部, 教授 (00572950)
米澤 朋子 関西大学, 総合情報学部, 教授 (90395161)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 行動変容 / 集団状況生成 / 屋外広告環境 / グループ学習環境 / 顔表情 / 仮想教室環境 / 競争状態 / いじめ防止 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,日常生活環境に配置された複数の擬人化エージェントの行動(ビヘイビア)を制御することで,ユーザの行動誘発や促進をねらったアンビエントな集団状況を生成することである. 屋外広告環境においては,集団エージェントの広告に対する感情的リアクションに関する予備検討として,個別のエージェントが表出する表情がユーザに与える無意識的な気分変化に関して実験を実施した.イラスト,実人物画像から生成したCGとその動的・静的提示パターンをそれぞれ評価した結果,実人物のようなリアルな表情の動的変化においてユーザの気分が同調する傾向が見られた. 仮想グループ実習環境においては,エージェントグループの休憩・PCタスク・他グループへの関心・話し合いを示しつつ作業するグループ学習において,順位の変動が競争意識を高めることがわかった.この成果を国際会議(HAI)に投稿し再録された.また,作業の余裕状態に応じた顔表情に関し,簡潔なモデルにより競争状況に応じた表情変化を実装し,グループ間で異なる様相を提示することができたため,オンライン予備実験を実施した. 仮想教室環境においては,前年度に収集した日本語非母語話者1名と日本語母語話者3名からなる人数不均衡なグループによる日本語での共同作業(目的指向の討論)のデータコーパスに対して異文化コミュニケーションの障害の観点から分析を進めた.中国語母語話者が日本語母語話者に囲まれ,日本語でタスクを進める条件と,中国語母語話者同士で中国語を用いて進める条件を比較した. 加えて,学校でのいじめ防止での運用について検討を行った.文献調査を行った結果,いじめが起きた際に,加害者,被害者以外の周りの第三者(傍観者)の対応は,いじめの深刻化に大きな影響を与えることが分かり,いじめ場面において多数を占める第三者に適切な対応を体験から学習してもらうシナリオベースの活用方法を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19により,被験者実験の中断・延期等の影響が生じたが,一部研究計画の変更,実施方法や内容の見直しにより,屋外広告環境,仮想グループ実習環境,仮想教室環境の各テーマの取り組みにおいて実験や議論を実施した結果,次のような成果や知見が得られた. 屋外広告環境集団に関して,感情的なリアクションの影響に関わる実験結果に基づき,集団エージェントによって動的な表情変化を伴うリアクションをユーザに提示することで,無意識的にユーザの気分を変化させた上で広告に注意を誘導し,広告の印象に影響を与える可能性について議論した. 仮想グループ実習環境において,ユーザの競争意識を高める要素として順位の変動の影響を明らかにした.次に,作業の余裕状態に応じた顔表情に着目し,簡潔なモデルにより競争状況に応じた表情変化を実装し,グループ間で異なる様相を提示することができた.COVID-19の影響により集団エージェントの表情に関する刺激動画によるオンライン予備実験を行ったが,実験のやり直しが生じたため,再実験を計画中である. 仮想教室環境に関して,日本語非母語話者1名と日本語母語話者3名からなる人数不均衡なグループによる日本語での共同作業のデータコーパスの分析を進めた結果,言語能力による参加度合いの変化や,討論に用いる言語の違いによる協調性・支配性の変化などが明らかになった. さらに,仮想教室環境の学校でのいじめ防止での運用について検討を行った.文献調査の結果,いじめが発生する際に,その集団における,加害者、被害者以外の周りの第三者(傍観者)の対応が,いじめが深刻化するか否かに対して大きな影響を与えることが分かった.このことから,いじめが生じる集団状況において多数を占める第三者に対し,教室内など様々ないじめ場面を再現した仮想空間において,適切な対応を体験から学習させるシナリオベースの活用方法を検討した.
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今後の研究の推進方策 |
屋外広告環境に関して,エージェントの視線行動や感情的なリアクションの変化,歩行者の歩行速度を考慮したインタラクションによって,集団状況や広告への印象に影響を与えるか,どのような集団の雰囲気形成が可能であるか検証する.また,グループ実習環境において設定した,個→内集団→外集団のモデルをベースに屋外広告環境におけるユーザと集団の注意・行動モデルについて検討を進める.これらより,エージェント集団の種類やそのビヘイビアが,ユーザの心理や広告への印象に影響を与えるか,どのような集団の雰囲気形成が可能であるか検証し,集団エージェントのビヘイビアとユーザの注意・印象の関係性モデルについて検討を進める. 仮想グループ実習環境に関して,複数エージェントのふるまいや感情表出によるユーザへの影響を数値的にモデル化するとともに,その効果を検証する.ふるまいのなかに感情を表出する顔表情を含めグループ構成集団エージェントの集団感情の影響を検討する.また,ふるまいにより起こる環境音を聴覚的なふるまい表出としてシステムに組み込む.最終的にはユーザの状況に応じて周辺としての集団エージェントの振る舞いを最適化するシステムを提案する. 仮想教室環境に関し,非母語話者の困った場面の注釈を行い,マルチモーダル機械学習を用いた自動検出モデルについて検討を行う.仮想教室環境の学校でのいじめ防止を目的とした検討に関しては,これまでに仮想教室システムのアプリケーションとして開発した教諭の学級内の生徒の人間関係に介入することで,いじめに発展しかねない生徒の孤立化を防ぐことをゲーミフィケーションで体験できるシステムをもとに,今年度は先行研究で提案されたソシオンモデルを発展させる形で仮想学級内の生徒の人間関係のモデルを検討する. また,これら各シーンにおける検討から,集団状況を醸成する要因についてユーザの行動変容との関係性をまとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大防止措置の影響により,学会等の現地開催の中止,被験者実験の中断・中止などの研究計画の遅延が発生し,一部研究計画の変更を余儀なくされたため. 感染拡大状況や情勢の変化に応じて,オンライン実験やデータ収集を再開しており,今後,一部の被験者実験は必要な対策等を徹底した上で,状況を鑑みながら必要性と安全性を考慮して実験を再開する予定であるが,被験者雇用費用のほかに実験における安全対策,感染防止策にかかる費用や,遠隔実施・オンライン調査等に係る設備利用やサービス利用料等の追加費用が発生する見込みである.また,それら実験で得られる成果発表に関わる費用等として使用する予定である.
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