研究課題/領域番号 |
19K12094
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
矢入 健久 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (90313189)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動的システム学習 / 健全性監視 / 異常検知 / 転移学習 |
研究実績の概要 |
近年、IoTに代表される計測通信技術の普及と、深層学習を含む機械学習の発展が相まって、大規模かつ複雑な人工システムの健全性監視において、データ駆動型のアプローチ、すなわち、過去の膨大なデータからシステムの挙動モデルを統計的に学習して健全性の監視に利用するアプローチが大きな期待を集めている。本研究では、このデータ駆動型健全性監視が抱える2つの問題に焦点を当てている。第一の問題は、現実の人工システムにおいては事前に十分な量と質を兼ねた訓練データを入手することが容易でなく、特に、異常や不具合に関するデータはほとんど存在しないという点である。第二の問題点は、膨大なデータに対して機械学習を適用することによって得られた帰納的モデルが必ずしも専門家が持つドメイン知識と整合しないため、実世界での利用に耐えるだけの説明性を有さないことである。これら2つの問題を解決するため、本研究では、データ駆動健全性監視のための転移学習法を開発すること、および、工学者・専門家にとって解釈性の高い潜在変数-状態空間モデルと最新の機械学習手法との融合を図ることでデータ駆動健全性監視の説明性を実現することを目的とする。 本課題3年度目である2021年度は、前年度から引き続き状態空間モデルと生成的な 深層学習モデルを融合することにより、自然法則やシステム固有のダイナミクスに関する事前知識をモデルに埋め込みつつ、高次元時系列データ入力からシステムの内部状態遷移を推定・監視する技術の開発に取り組んだ。また、変分自己符号器の訓練に自己教師あり学習を用い、地球周回の人工衛星に本来備わる周期性を事前知識として利用することによって、潜在変数空間の各次元が解釈可能になることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画において、本研究の最終年度であった2021年度は、前年度までに取り組んできた各サブテーマの成果を統合して、2つの問題「データ入手の困難性」と「説明性の欠如」に対する解決策を示す予定であった。このうち、後者については前述のように解釈可能な潜在変数空間を構成する方法を明らかにした。一方、前者については、状態空間モデルに基づくドメイン間の転移学習の確立と実証に当初予想していた以上に時間が掛かっている。また、コロナ禍の影響により国内外の会議の機会が減るなど、成果発表の機会も当初の見込みよりも少なかった。これらの状況を鑑みて、2022年度1年間の補助期間延長を申請した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度中に完了しなかった状態空間モデルに基づくドメイン間の転移学習の確立と実データを用いた検証を実施することにより、本課題の2つの目的である「データ入手の困難性の解決」と「説明性欠如の解決」を完遂する方針である。また、同じく前年度中に完了しなかった研究成果発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度計画していた研究項目のうち、データ入手の困難性を克服するための転移学習法の開発において、想定以上の時間を要したこと、および、参加を予定していた学会の延期により、1年間の補助期間の延長申請を行った。次年度使用額は、これら未完遂の研究項目を完了させるため、計算機資源、実証実験の準備、学会参加のための旅費等に充てる計画である。
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