本研究は、データ駆動型の健全性監視法が抱える2つの問題の解決に焦点を当てている。一つは、現実の人工システムにおいては事前に十分な量と質を兼ねた訓練データを入手することが困難または非常に高価であること、もう一つは、機械学習により帰納的に得られたモデルが対象人工システムのドメイン知識と乖離しているために実用に耐える説明性を担保していないことである。本研究ではこれら2つの問題に対して、工学者・専門家にとって解釈性の高い潜在変数-状態空間モデルと最新の機械学習手法との融合を図ることによって、ドメイン知識の活用による必要訓練データ量の削減と、データ駆動健全性監視の説明性を実現することを目標とした。 具体的には、まず、伝統的な状態空間モデルと生成的な深層学習モデルを融合することにより、自然法則やシステム固有のダイナミクスに関する事前知識をモデルに埋め込むことによって、比較的少量の動画像などの高次元時系列データからシステムの内部状態遷移を推定・監視する技術の開発に取り組んだ。そして、協調搬送ロボットの行動を模擬した画像時系列に適用し、複数種類の異常事象を的確に分類しつつ検知できることを示した。また、人工衛星テレメトリなどの高次元時異種系列データ入力からシステムの内部状態遷移を推定・監視する技術の開発に取り組んだ。ここでは、変分自己符号器の訓練に自己教師あり学習を用い、地球周回の人工衛星に本来備わる周期性を事前知識として利用することによって、潜在変数空間の各次元が解釈可能になることを示した。さらに、力学的運動に関する事前知識を埋め込んだ状態空間モデルと半教師あり変分自己符号器を融合することにより、形状モデルや画像特徴抽出を必要とせずに、宇宙デブリの3次元回転画像列から対象物体の姿勢状態を推定し将来の観測(見え方)を予測する手法を開発した。
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