本研究の目的は,統計的因果分析における因果効果の推定問題をスパースモデリング・ベイズ統計学・決定理論に基づいてモデル化し,ベイズ最適な決定法,及び効率的な近似アルゴリズムの構築と解析を行うことであった. 最終年度に当たる2023年度は,前年度までに行っていた「モデル構造が未知の状況におけるベイズ最適な因果効果推定手法とベイズスパースモデリングに基づいた近似手法」について,関連研究の調査を行い,提案手法の有効性を検証するための追加実験を実施し,これまでの成果をまとめた論文の執筆を行った. 得られた研究成果については,国内の機械学習に関する会議IBISで発表した他,人工知能・統計学分野でのトップ国際会議の1つであるAISTATSに採択され,発表を行った. 従来,構造的因果モデルにおける因果推論では,因果モデル(因果ダイアグラム)は事前に分かっていると仮定するか,データから一度推定してから因果効果を推定する必要があった.現実的には因果モデルに関する知識が完全に与えられるという状況は多くなく,因果モデルの不確実性も考慮したうえで因果効果を推定する必要がある.提案手法では,従来研究のようにモデルを1つに固定して因果効果を推定するのではなく,複数のモデルのもとで推定した因果効果をモデルの信頼度に応じて重み付けを行うことで因果効果推定を行う.これにより,従来の手法に比べて高い精度で因果効果が推定可能になることを示した.また,変数の数が多くなると,モデルの候補が莫大になり,計算量的に重み付け計算が困難となるが,これをベイズスパースモデリングの考え方を応用することで,高い精度で効率的に近似可能な手法を提案した.
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