研究課題/領域番号 |
19K12137
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
有田 隆也 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (40202759)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 利他行動 / 間接互恵 / 仮想生物進化 / ゲーミフィケーション |
研究実績の概要 |
利他行動を生み出す互恵性の進化的基盤における身体性,リアルタイム性,及び人間心理の果たす役割を構成的アプローチによって理解し,その知見に基づいて互恵促進アーキテクチャとして応用することを目的として,以下の4つのサブテーマの研究を進めた. 第一に,抽象レベルの計算論的アプローチとして,ハイダーのバランス理論に基づく社会心理ダイナミクスを自己駆動粒子群モデルとして構成した計算論的モデルを作成した.それにより,社会的関係性と社会的嗜好の両者で駆動されるループダイナミクスを明らかにし,さらに局所解に至るメカニズムを明らかにした.同時に,予備的研究として開始していた間接互恵モデルの研究成果をまとめた. 第二に,利他行動におけるリアルタイム性と人間心理の果たす役割を解明するためのオンライン実験環境を構築した.そして,初期的な被験者実験を行い,社会的関係の変更機敏性(変更速度)の多様性が集団の振る舞いに影響を及ぼして,大域的な協力集団を作り出しうることを明らかにした. 第三に,仮想物理環境において,運動に伴う音を発生し,かつその音を行動に利用できるような仮想生物の体構造と行動を共進化させる環境を構築した.そして,進化実験により,音を利用した集団行動を創発しうることを確認した.これは,日常的な動作に必然的に伴う音の発生とその利用を起源とし,それが次第に「儀式化」して言語の成立に繋がるという言語起源に関する仮説を検討する第一歩として位置づけられる. 第四に,互恵性に基づく協力関係を促進するアーキテクチャのプロトタイプ構築の第一歩として,2層化ゲーミフィケーションプラットフォーム「DERC」をVR会議の環境に導入した.初期的評価実験の結果,議論の質が向上し,情報量も増加する可能性が確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は相互依存しつつ並列実行される4テーマによる推進されるが,当初の計画以上に進展していると評価できる.その根拠は以下の通りである.四番目のテーマは応用であり,実用的なシステムの構築も含むこともあり,すぐに成果が出る性質のものではなく,試作を進めている段階である.一方,それ以外の3つのテーマに関しては,初年度ということにも関わらず,学会論文やジャーナル論文(計5本)という成果に結実しているからである.また,研究成果的にも,特に,あげるならば,二番目のテーマにおいて,社会的関係性の強さが連続的に,かつリアルタイムに変化する環境が社会的関係性のダイナミクスにどのような影響を与えるかという問いに答えうる実験環境を築き,さらに初期的な知見を得たことは,計画以上の成果である.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画通り,研究を遂行していく予定である.特に現時点で,重点をおくべきと考えることは,サブテーマ1に関しては,粒子群モデルでの心理的傾向の導入方法であり,サブテーマ2に関しては,オンライン被験者実験から得られた実験データと既存の心理的特性指標との関連づけであり,サブテーマ3に関しては,仮想生物集団に創発する利他行動の測定指標であり,サブテーマ4に関しては,開発中のプラットフォームを参加者を自由に受け入れ可能という意味でのオープン性の実現である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は,理論的な研究テーマを並列に実行しつつ,得られた知見を「互恵性に基づく協力関係を促進するアーキテクチャのプロトタイプ」の構築へと結びつけるものである.「7.現在までの進捗状況」に記述したように,本年度,当初の計画以上に理論的な知見が得られたため,そちらに研究の重心を若干ずらした.また,新型コロナに伴う出張経費の変更の影響も皆無ではない.これらの要因に応じて,理論研究で得られた知見を応用したプロトタイプ構築に関しては,研究のスケジューリングを若干,変更しており,昨年度の予算の繰り越し分を2020年度の研究遂行に不可欠なものとして使用する.
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