本研究は,自律的に移動可能なマイクロロボットの行動設計への応用を目指し,自然が創り出したマイクロロボットである単細胞生物の行動のしくみを明らかにすることを目的とした.具体的には,単細胞生物ゾウリムシの学習能をターゲットに,その学習能が高等生物と比較してどのくらいのレベルか,どのような細胞機能に基づいて実現されているかを生物実験と数理モデルの両面から明らかにする. その実現のために研究を3段階に分けて遂行した.第1段階は,ゾウリムシが通常の生活空間とは異なる形状の空間におかれたとき,空間形状に適した運動を試行錯誤的に獲得する行動変容能(学習能)を持つことを実験的に示す段階である.第2段階は,その行動変容が短期的に記憶できることを実験的に示す段階である.第3段階は,それら学習能および短期記憶能をゾウリムシの行動を制御する膜電気動態に基づいて数理モデルで表現する段階である.2021年度までに,上述の第1段階および第2段階の基礎となる実験的研究,第3段階の数理モデルの基盤構築までを終えた. 2022年度は(1)ゾウリムシの運動モデルの3次元運動への拡張,(2)実験から示された行動変容の仕組みのモデルへの組み込み,(3)実験結果を再現し得るパラメータ探索,(4) 論文執筆に取り組んだ.(1)については,ボルボックスの3次元運動モデルを基盤に,ゾウリムシの繊毛運動に伴って生じるトルクを定式化して構成された.(2)については,ゾウリムシの細胞側面刺激によるカリウムイオンチャネル特性の変化を行動変容メカニズムとしてモデルに取り入れた.(3)については,実験パラメータとモデルパラメータとが直接的に対応しないため,数値計算的に妥当なパラメータを探索した.(4)については、論文を執筆し1報は投稿中,別の1報は執筆継続中である.論文化については,採択プロジェクト終了後も継続して取り組む.
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