研究課題/領域番号 |
19K12153
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 禎彦 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 准教授 (20512354)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非平衡熱力学 / 量子確率過程 |
研究実績の概要 |
本研究では統計的推定理論と非平衡熱力学理論を組み合わせることで,新しい視点から非平衡系を解明することを目標としている.従来の熱力学の適用範囲はマクロな系における平衡状態間の遷移に限られていたが,非平衡熱力学の一つである確率熱力学では,細胞などのミクロかつ非平衡状態の記述が可能であり大きな注目を集めている.近年,確率熱力学において熱力学不確定性関係と呼ばれる普遍的な不等式が成立することが発見された.この不等式は「cost」と「quality」に対する不等式であり,高いqualityには高いcostが必要であることを示している.このようなトレードオフ関係式は統計的推定理論においても,Cramer-Rao不等式をはじめとして数多く存在する.本研究では,非平衡熱力学と統計的推定における不等式間の類似性に着目し,非平衡系における関係式を統計的推定の観点から解明することを目指す.さらに,統計的推定の理論を適用することで,新しい熱力学的関係式を得ることを目標としている.
本年度は,特に量子系における熱力学不確定性関係に着目した.連続観測に対する任意の観測量に対して熱力学不確定性関係が成立することを明らかにした.アプローチとしては量子推定理論を量子マルコフ連鎖に適用することで示した.また,この方法をさらに発展させ,任意の量子開放系においても熱力学不確定性関係が成立することを示した.これらの成果を査読付き論文誌(Physical Review Letters)に2報発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和2年度の研究計画では,数理推定理論を確率熱力学に適用し,非平衡熱力学における不確定性関係の理解を深めることが目的であった.令和2年度の研究では,特に量子推定理論を用いることで,量子開放系における解析を行った.この研究によって,任意の量子開放系においても熱力学不確定性関係が成立していることを理論的に明らかにした.特に,量子連続観測と呼ばれる系においては,系の量子性を用いることで,古典的な精度を超えることが明らかとなった.この解析手法をさらに発展させることで,量子系における熱力学不確定性関係の解析をさらに進めることができると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
量子熱力学不確定性関係の最新の研究動向を調査し,今までの研究成果を発表するために予定であり,その予算を使用予定である.現時点で投稿中論文が3本,また近々投稿予定の論文が1本ある.現在執筆中の論文について,英文校正代が必要である.また,採録された場合は投稿料として予算を使用する予定である.本研究課題は指導する学生が研究テーマとして研究している.これらの学会発表や論文発表のために使用する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19による状況のため,学会等に参加できなかったため,費用が余ることとなった.令和3年度に状況が改善した場合には,学会等に参加する予定である.
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