2020年度では量子推定と熱力学不確定性関係の関係を明らかにしたが,2021年度では,量子系における不可逆性と精度の関係に着目した.ロシュミットエコーと呼ばれる不可逆性を表す統計量によって,量子熱機関の精度がバウンドされることを示し,Physical Review Letters誌で発表した.ロシュミットエコーは量子多体系で重要な指標であり,古典系においてカオスを判別するリヤプノフ指数の量子拡張である.この結果は最近報告されたHellinger距離に対する不等式を用いており,得られた結果は非常に一般的であり,今まで導出された熱力学不確定性関係に対して統一的な解釈を与える.また,量子マルコフ過程において量子エントロピー生成に対するバウンドを導出し,この結果をPhysical Review Letters誌で発表した.得られた結果は,従来の量子エントロピー生成に対するバウンドより応用しやすいという特徴を持つ.2021年度は,トポロジカルデータ解析においても研究成果を発表している.具体的には,位相振動子の収束状態(同期,キメラ状態,非同期等)の予想を行う方法をトポロジカルに行う方法を提案し,この成果をPhysical Review Eで発表した.また,古典熱力学系における緩和速度に関する報告を行った.具体的には,平衡状態に緩和する場合,温度が上がる方向の方が下がる方向より速いことをPhysical Review Researchで発表した.
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