研究課題/領域番号 |
19K12155
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
服部 元信 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (40293435)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 破局的忘却 / スパイキングニューロン / 宣言的記憶 / 海馬 / 大脳皮質 |
研究実績の概要 |
本研究では,生物学的に妥当性のあるスパイキングニューロンモデルを用いて,海馬と大脳皮質からなる宣言的記憶の形成モデルを構築することを目的としている.本年度は,スパイキングニューラルネットワークにおいて,破局的忘却を抑制する方法の研究を行った. 一般に,人工的な神経回路網(ニューラルネットワーク)では,新規な情報のみを追加的に学習させると,それまでに学習した情報をひどく忘却する,破局的忘却という現象が生じる.我々のこれまでの研究では,抽象度の高い形式ニューロンモデルで破局的忘却を抑制する方法を考案してきたが,より生物学的に妥当なスパイキングニューロンモデルにおいては,まだその方法が明らかになっていない.そこで,今年度の研究では,生物学的に妥当な教師あり学習法として提案されている,Dopamine-modulated STDP (DA-STDP)学習法に,適応的シナプス可塑性(Adaptive Synaptic Plasticity: ASP)学習法を導入した学習法を考案し,入力層,興奮性・抑制性層,出力層からなるネットワークに適用した.ASPでは,ある程度破局的忘却を抑制した学習が可能であるが,教師なし学習法であるため,興奮性層のニューロンにラベルを割り付ける際には,過去に学習した全ての情報が必要になり,継続的な学習に適していない.一方,本手法では,興奮性・抑制性層と出力層の学習にDA-STDP法を用いることで,新規な情報のみでの学習が可能となった.さらに,興奮性・抑制性層と出力層の重みの正規化を双方向に2段階で行うことによって,優れた破局的忘却抑制性能が得られることを明らかにした.また,興奮性・抑制性層のニューロン数を増加させることで,より忘却を抑制できることもわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,本研究の基礎となるスパイキングニューラルネットワークにおける破局的忘却の抑制方法に関する研究に取り組み,良好な結果が得られた.一方,今回採用したネットワークモデルでは,海馬など記憶に関係する脳の部位の構造的な知見等は十分に考慮されていない点が今後の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナの感染拡大の影響で,当初予定していた国内外の研究会,学会などにおける情報収集が困難な状況になっているため,情報収集については文献を中心に行っていく.また,スパイキングニューラルネットワークは,効率の良い学習が難しいため,本研究課題と合わせて,スパイキングニューラルネットワークの学習そのものについても研究を進めていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に参加・発表予定であった2つの学会が新型コロナ感染防止のために中止となり,次年度使用額が生じた.今後も引き続き国内外への学会参加が困難である場合は,当初旅費として計上してある予算の一部を物品費として使用し,大規模で高性能な計算を行うための備品の購入に充てる.
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