研究課題/領域番号 |
19K12184
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
田中 琢真 滋賀大学, データサイエンス学部, 准教授 (40526224)
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研究分担者 |
古田 貴寛 大阪大学, 歯学研究科, 講師 (60314184)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 情報量最大化 / ヒゲ感覚運動システム / 位相振動子系 |
研究実績の概要 |
今年度はアクティブな情報探索を行うモデルの定式化と,ノイズのある環境におけるダイナミクスの力学系的な研究を行った. アクティブに情報探索を行うモデルは次のとおりである.ラットのヒゲ感覚運動システムをモデル化し,ヒゲで一次元空間内を掃引して,空間内に確率的に出現し,確率的に消える物体(ここでは一種類のみを考える)についての情報をできるだけ効率的に取得するとする.ヒゲによる物体の検出は確率的に行われ,ヒゲの速度に応じて物体を検出できる確率が下がるものとした.空間は有限個のマス目に区切られているものとした.情報量の意味で最適な運動をさせるためにはマス目の個数に対して指数関数的に依存する記憶容量が必要になるが,近似することでマス目の個数に比例する記憶容量ですむモデルを作った.この二つのモデルの挙動は定性的には似ていたため,近似モデルの挙動を詳しく調べた.このモデルではヒゲは,物体を検出していないときは高速で運動し,物体を検出すると物体の位置を特定するために低速で往復運動をするようになる.このモデルに対応するものがラットの脳内にあるとすると,空間内の各点に物体が存在する確率を表現している細胞があることが予想される. アクティブな情報探索においては,ノイズの存在を無視することはできない.ノイズの存在する環境におけるダイナミクスの基礎理論として,位相振動子系にノイズが与えられている場合のダイナミクスを低次元に縮約する研究も行った.これまで位相振動子へのノイズとしては正規分布を使うことが普通だったが,コーシーノイズを使うことでOtt-Antonsen式の低次元縮約が可能であることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はアクティブな情報探索を行うモデルの定式化はできたものの,生理学的な対応付けについては全く着手できていない.また,ヒゲの運動速度と物体検出確率の関係については,生理学的な動機や理論的な裏付けのあるやり方ではなく,ad hocなやり方で決めている.これについてもまだ適切な設定方法を見つけることができていない.さらに,現在は比較的シンプルなモデルが構築できており,生理学的な対応付けも不可能ではないと思われるが,モデルから生理学実験についての予測を行うには至っていない.モデルによる予測を実験で検証することによってモデルの妥当性を評価することが必要である. また,アクティブな情報探索のモデルに加えて,力学系に関する基礎的な研究は行えているが,情報理論に基づく神経回路網のモデルについては今年度は進捗しなかった.具体的には,時系列情報を処理する大規模なニューラルネットワークの中に発生する構造について調べる研究を行ったが,既存の結果を確認する段階にとどまっている.
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今後の研究の推進方策 |
アクティブな情報探索を行うモデルを生理学実験と対応づけることが必要である.ヒゲの運動速度と物体検出確率の関係については,生理学的な根拠のある関係式を決定する必要がある.生理学実験との対応付けをするために,モデルによる実験しやすい,意味のある予測を行うことを目指す.具体的には,物体の出現確率の変動に伴ってヒゲの運動がどのように変化するか,また,個体が想定している物体の出現頻度と実際の物体の出現頻度を異なる値に設定したときにどのような特徴が出現するかを調べる.このようなずれがあるときの探索の行動を計測し,モデルと実験の対応がつくことを確認できればモデルの妥当性が検証できることになる. また,アクティブな情報探索のモデルに加えて,力学系に関する基礎的な研究や,情報理論に基づく神経回路網のモデルについても並行して研究を続けていく.リザーバーネットワークの単純で取り扱いやすいモデルを使うことで,神経系で時間的に不変な表現がどのように発生してくるのかを調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
学会・研究会出張では,一回あたり10万円程度の出費がある.しかし,2020年度は新型コロナウイルス感染症の拡大と移動制限により,多くの参加予定だった学会・研究会がオンライン開催となった.このため,旅費として見込んでいた額が未使用となり,次年度使用額が発生した.そのほか,研究の進捗がやや遅れているため,使用額が少なかった費目(計算機購入費や英文校閲費など)がある. 2021年度も旅費は少なくなる可能性が高いが,研究の進捗に伴って,今後費用が発生してくると考えられる.研究に必要な機材(主として計算機)の購入と発表のための費用(英文校閲費など)に充てることを計画している.申請した計画に沿って適正に使用していくことを予定している.
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