研究課題/領域番号 |
19K12186
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
尾崎 繁 目白大学, 保健医療学部, 教授 (60292546)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プリズム適応 / 運動学習 / ヘッドマウントディスプレイ / VR空間 |
研究実績の概要 |
スポーツのように練習によってスキルの上達を図るためには“失敗に学びながら覚える”ことが重要である。例えば、視覚目標に向かって手を伸ばす運動(到達運動)は、ガラスプリズムを用いて視野を水平方向にずらすと、初めは虚像に手を伸ばすので目標との間に誤差が生じるが、この誤差は運動を繰り返しながら減少していく(プリズム適応)。次にプリズムをはずして到達運動を行うと、当初は逆方向の誤差が生じ(後効果)、再び運動を繰り返しながら回復する。この過程は脳の可塑性による「運動学習」で説明されている(Kitazawa et al., J. Neurosci. 1995)。 本研究課題は、プリズム適応の誘発と解析にヘッドマウントディスプレイ(HMD)とバーチャルリアリティ(VR)技術を組合せ、次の仕様を備えた実験システムを開発する。(1) ガラスプリズムを使わない視界シフト、(2) シフトの方向と大きさを可変、(3) 視界遮断等の映像効果の付加、(4) ハンドコントローラによる運動の検出、(5) ダーツ(ボール当て)ゲームのVR空間、(6) 様々な条件下のVR空間で運動学習を誘導。初年度は、(1)から(3)の仕様を満たす2段階(2種類)のプロトタイプシステムを構築した。これらシステムの有効性の検証と改良を進めることにより、運動学習(教師あり学習)の機構に関わる神経科学の基礎研究と臨床分野への応用に加え、神経生理学分野の教育や科学啓発に至る幅広い領域への貢献を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度(令和元年度)は、プリズム適応の誘発と解析にHMDとVR技術を組合せ、(1) ガラスプリズムを使わない視界シフト、(2) シフトの方向と大きさを可変、(3) 視界遮断等の映像効果の付加、の仕様を備えた実験システムを2段階(2種類)で構築した。 初号機では、HMDゴーグル前面に取り付けたカメラの映像を制御PCを介してHMDに投影し、このカメラの任意方向シフトによって誘発するプリズム適応をボール投げによって観察した。このシステムは定量的解析には不利であるが、プリズム適応の紹介、体験に最適である。 2号機では、初号機と同様のシステムを腕の到達運動に適用した。コンピュータプログラムを自作し、起点とモニタの間の手の動きをデジタル映像処理で遮断(暗転)、運動回数と標的からの誤差を記録、解析するシステムを構築した。これにより先行研究Kitazawa et al., J. Neurosci. 1995)と同等な、到達運動中の視覚性フィードバック修正が遮断されたプリズム適応の効果を観察できた。 両システムの有効性は、予備実験レベルでは検証できた。しかし、さらなる改良を進めるためには適正規模の被験者実験が必要であり、そこには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、前年度に構築した2種類の実験システムの有効性の検証と改良を被験者実験の実施により展開する。これによって運動学習に関わる基礎データの取得と生理学教育や科学啓発活動への活用の可能性を検討する。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大防止策を徹底すべき現状の中で、被験者実験や一般向けの成果発信を計画通りに実施できるかは不透明な点がある。 そこで2021年度予定の研究計画を早め、VR空間内の標的に向かってダーツ(あるいはボール)を投げ当てる運動の学習効果を記録、解析する実験システムの開発に着手することも検討している。ゲームエンジン“Unity”を基盤とする「ダーツ(ボール)投げゲーム」のソフトウエアを開発し、ハンドコントローラを付属するHMDによって腕の動きから算出したダーツ(ボール)軌道をVR空間に再現することを目指す。 2020年度以降については研究計画を弾力的に運用することによって当初目的の達成を図ることになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の遂行に不可欠な研究開発システムを構築するために、当初は研究協力者等を動員する計画していたので、必要機材を2セット準備(調達)する予定であった。しかし、初年度に適任者が見つからず、1セットのみの導入に留まった。また、諸般の事象により年度末の学会(@福岡)が中止になることが判明したため、出張計画を取りやめた。 今年度は2セット目の機材の調達、被験者実験(謝金)とそれに伴う実験補助者の短期雇用を予定している。ただし、新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きい場合、計画の再検討が必要となる。
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