研究課題/領域番号 |
19K12201
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今井 健 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (90401075)
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研究分担者 |
藤生 克仁 東京大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (30422306)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 深層学習 / 心電図 / 医療AI / 診断支援 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究は、既存の心電図計による所見自動付与の精度向上のため、深層学習を用いた心電図波形自動解析手法を開発することを目的としている。 昨年度まで、東大病院の循環器内科をを受診した患者を対象とし、研究代表者らがこれまでに開発してきた標準12誘導心電図波形に対するCNNを用いた自動解析手法である One-Shot Screening手法の改良を行ってきた。提案手法は、心拍毎にカットし重ね合わせた波形画像を12誘導それぞれに対してCNNで学習し、第2段階目で全ての誘導を統合して判定する、というフレームワークを基本としている。これまで、正常・異常の2値分類タスクで正解率87%、また重症度の高い所見、あるいは 境界域異常所見では高精度に判定可能である、という結果を得ているが、様々なモデルの違いによる大幅な精度向上は見られず、2値分類タスクという点では、一定の精度の限界を迎えたと考えられた。そこで本年度は、あらゆる種類の所見を対象とするのではなく、左室肥大などの個別所見に対する学習モデルの開発を行った。全12誘導の波形画像とそれらの重ね合わせの仕方(左・中央・右寄せ) によって36種類の画像が入力候補となるが、全てをCNNに通した結果を統合するモデルではGPUメモリの限界のため計算が行えない。そこで、左室肥大など個別所見の予測へ寄与度が高かった上位12種類の画像のみに絞ったモデルを作成することで、1つのモデル内で対象波形画像の情報を全て統合し学習することが可能となった。また各種ハイパーパラメータ調整により正解率96%、F1値0.70まで精度が向上してきている。次に心電図計による自動付与所見ではなく、心臓超音波検査データによる診断結果を正解データとした再学習については、新型コロナ禍の影響にて中途で研究の進捗が遅れ、十分に完了しなかった。延長を経た最終年度でモデルの完成へ進む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの開発してきたこれまでに開発してきたOne-Shot Screening手法の改良では全所見を対象とした正常/異常の2値分類タスクでは一定の精度の限界に達しており、左室肥大、右房肥大、左房肥大など個別所見に対するモデルの開発が重要となっている。本年度、様々な波形画像の生成方法(12誘導*3種類の重ね合わせ方法=36種類)を一括して扱うことが物理的制約により困難であるという問題に直面したが、対象を個別所見に絞ったことで、予測に寄与度の高い波形画像を選択して学習に用いるというアイディアでこの問題を解決することができ、大きく進展した。またこの手法により、これまでは各誘導波形をCNNにより学習、その結果を第2段階で統合、という2つのステップを必要とした所を、1つのモデル内で全ての波形画像を統合して学習することが可能となり、異なる誘導の統合が十分でない従来手法の欠点を改良することができた。さらに各種ハイパーパラメータ調整により非常に有望な結果が得られている。一方、心電図計による自動付与所見の再現実験での試行ではなく、左室肥大などの個別所見を対象とすることで、より確信度の高い心臓超音波検査データによる診断結果を正解データとした再学習が重要な課題である。しかしながら新型コロナ禍の影響にて中途で研究の進捗が遅れ十分に完了しなかった。既にデータは入手済みで膨大な前処理も完了し、また波形画像以外の患者情報もメタデータとして学習に用いる準備も整っている。現在これを元にした実験を行っており、延長を経た最終年度でモデルの完成へ進む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで既存の心電図計の自動付与所見を対象に学習を行っていたが、最終年度では心臓超音波検査データによる精度の高い診断結果を正解データとし、左室肥大、右房肥大、左房肥大などの個別所見に対する学習モデルを完成させる予定である。本年度新型コロナ禍の影響で進捗が遅れてしまったが、既にデータの入手、前処理等は終了しており準備は整っている。使用する 12誘導の波形、またそれぞれについて R波ピークで切断した波形画像の重ね合わせ方法(R波ピークを左、中央、右寄せ)の組み合わせで36種類のone-shot 波形画像が存在するが、所見ごとで予測への寄与度が高い波形画像が異なる。従って、単独での予測精度に基づき寄与度が上位である波形画像のみに絞って学習に用いることによって、限定されたGPUメモリ上でも効率的に学習する手法の実証を行う。専門家との結果の分析を元に、解析手法として確立する。これは既に心電図計での自動付与所見を対象とした本年度研究では有効性が示されているものである。学習に十分なデータは揃っているが、特に症例数が少ない特定の所見については、学習の際にデータ数を水増しするデータオーグメンテーションが依然として重要である。既にデータオーグメンテーションの有効性はこれまでの実験でも明らかになっているが、心電図波形から得られた画像は、一般的な画像と異なり回転などの変換が使用できない。従って上下の位置変更など、単調なオーグメンテーションとなってしまうことで結果として学習に寄与していない可能性がある。適切なデータオーグメンテーション手法の確立についても引き続き改良を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
心臓超音波検査データによる診断結果を正解データとした再学習をする段階で、新型コロナ禍の影響にて中途で研究の進捗が遅れ、十分に完了しなかった。そのため延長する必要が生じ、次年度使用額が生じた。既に研究遂行に必要な機器や資料等については十分に揃っており、次年度使用額については研究遂行に必要な消耗品費に使用する予定である。
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