研究課題/領域番号 |
19K12205
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
永井 秀利 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 助教 (60237485)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 表面筋電 / 運動単位 / 冗長ウェーブレット解析 / ウェーブレット係数集合 / ウェーブレット重心 / ウェーブレット係数のRMS |
研究実績の概要 |
本課題では,表面筋電信号から特徴を得るために冗長離散ウェーブレット解析を行っている.冗長離散ウェーブレット解析では任意のサンプル位置を起点とした多重解像度解析結果のすべてのウェーブレット係数を算出する.これまでの研究では,ある時刻の信号特徴を得るためのウェーブレット係数集合として,多重解像度解析の計算上の関係性にこだわらずに周波数帯域ごとにウェーブレット係数を選出する時間位置を変更する手法を提案し,その基本形となるウェーブレット係数集合のパターンを定義した. ウェーブレット係数集合の基本形では,各周波数帯域の領域の先端または末端を揃えた状態から領域幅の一定割合分を隣接する低周波帯域に対して相対的にシフトする形を取る.表面筋電信号において,ウェーブレット係数集合に基づく周波数特徴量がシフト量によってどのように変化するかを調べたところ,あるシフト量付近で特徴量の時間変動が大きくなるという現象が観測された.この現象が生じる原因を追求した結果,表面筋電信号を構成する成分波形である運動単位活動電位の波形と密接な関係にあるとの知見を得た.すなわち,ウェーブレット係数集合の設定が運動単位活動電位波形の周波数成分の時間分布との適合性が高い時,運動単位が励起されて活動電位波形が存在する時刻のウェーブレット係数集合に基づく特徴量は大きな値となり,そうでない時刻では小さな値となるということである.ウェーブレット係数集合の適合性が高くなければ,異なる運動単位活動電位波形の成分が混合されて含まれるため,顕著な時間変動は生じづらくなる.これにより,従来技術での表面筋電信号解析では運動単位活動電位波形の重畳としての総合的な性質しか捉えられなかったのに対し,表面筋電信号を構成する運動単位活動電位を分離して運動単位の観点で筋活動を分析する技術の道筋が開けた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の研究において,各周波数帯域のウェーブレット係数の領域を領域幅の1/2単位で時間位置のずらし方を変えた時,末端揃えから領域幅の1/2だけ後方にずらした際に他のずらし方と比べて特徴量の時間変動が明らかに激しくなるという現象が謎となっていたが,その原因を解明することができた.その過程で得た知見により,従来は行えなかった新しい観点で表面筋電信号に基づく筋活動分析を精緻に行うための方針が定まった. 学会等での発表は行われていないが,これは特許出願と関連して公表を控えているためである.
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今後の研究の推進方策 |
表面筋電信号を構成する運動単位活動電位の存在時刻と推定波形を得る技術の開発や,運動単位活動電位の観点での筋活動の特徴量化を目指す.運動単位活動電位の推定波形抽出は,従来は針筋電での計測でなければ得られなかった情報と言うことができ,本課題の学術的「問い」の内の1つへの解答となりうる. また,運動単位活動の観点に基づく新たな特徴量を黙声認識等の表面筋電活用技術で用いることも検討する.例えば,黙声認識実現のためのアプローチの1つとして,口唇形状の推定を試みることを検討している.表面筋電の特徴量から発声内容を直接に学習しようとする場合,学習データの不足が大きな問題となっている.カメラによる読唇技術の方が学習データは多く,その認識では主としてカメラで得た口唇形状を利用している.そこで,従来よりも筋活動を精緻に表現できる可能性がある新たな特徴量に基づいて口唇形状を推定してカメラによる読唇の入力とすることで認識を行うことを検討している.
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