研究課題/領域番号 |
19K12207
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
小田切 健太 専修大学, ネットワーク情報学部, 准教授 (20552425)
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研究分担者 |
高田 弘弥 日本医科大学, 医学部, 准教授 (30824833)
藤崎 弘士 日本医科大学, 医学部, 教授 (60573243)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞集団動態 / 数理モデル / リアルタイムイメージング |
研究実績の概要 |
本研究課題は、実験で得られたがん細胞動態の計測データを利用して、高精度予測が可能な細胞集団動態の数理モデル構築が目標である。そのために、実験による細胞動態のデータ計測、細胞動態の数理モデル構築、実験データを利用した数理モデルのパラメータ推定の3段階の研究を組み合わせて、研究を効率的に進めている。初年度は、主に実験によるデータ計測と数理モデル構築について研究を進めていった。 まず実験については、咽頭がんにおける呼吸や発声による刺激の影響を想定した実験を行った。喉頭部粘膜扁平上皮癌細胞(KB細胞)に対して、周期的圧刺激を負荷することによって呼吸や発声による振動を再現し、細胞内Ca2+あるいはK+濃度変化をリアルタイムイメージングした結果、50 Hzの振動では組織中の細胞外K+放出がみられた。培養したKB細胞にヒスタミンを投与し、K+チャネル応答をリアルタイムイメージングしたところ、ヒスタミン刺激によってK+チャネル開口は顕著に抑制されるが、ヒスタミン刺激5分前にあらかじめ振動圧刺激(50 Hz, 1 min)を負荷しておくと、K+チャネル応答の改善が認められた。このように、初年度は培養したKB細胞の特性の見極めを行った。 数理モデルについては、細胞動態の数理モデルのテストケースとして、ヒト上皮細胞による創傷治癒実験の結果をより正確に再現する数理モデルの構築を進めていった。これまでの研究において、圧刺激を加えた際に生じるシグナル物質の影響をあらわに取り入れたモデルを構築していたが、これに加えて圧刺激の効果をモデルに取り入れるための検討を行ってきた。細胞の各部位に印加される実効的な力を、数理モデル上の計算で現れるエネルギーを用いて計算する手法を用いて表現する手法の導入を目指していたが、初年度の時点では実装にまでは至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験に関しては、喉頭部癌由来KB細胞の特性の理解が進んでおり、研究はおおむね順調に進んでいると言える。一方、数理モデル構築およびパラメータ推定に関しては、創傷治癒実験の結果をより正確に表現するような、圧刺激の効果を取り入れたモデルの構築を目指したが実装にまで至っていない。そのため、数理モデルのパラメータ推定の方も進んでおらず、研究はやや遅れている状況である。これらの状況を総合的に判断して、研究の進捗状況はやや遅れている、と言える。
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今後の研究の推進方策 |
実験については、これまでの実験で理解の進んだKB細胞の特性を踏まえ、一過性のアレルギーを引き起こす低濃度で持続的なアレルギー病態条件を探索している。そのために、1)50 Hzの振動圧刺激によって一過性のK+チャネル開口と同時にK+チャネル応答が増強する、2)K+チャネルが上皮粘膜バリア機能を改善する、という2つの仮説を立て、KB細胞に対する振動圧刺激負荷後のアレルギー病態有無しの条件下において、細胞の挙動を長時間タイムラプス観察する。振動圧刺激負荷後のアレルギー病態下では細胞増殖が加速すると予想している。長時間の細胞動態データからシミュレーションし、細胞増殖抑制およびK+チャネルの活性化によって癌の予防・阻止する治療戦略が検討できるかまで最終的に推察する。 数理モデル構築については、引き続き圧刺激の効果を取り入れた数理モデルの構築を目指して、実効的な力の実装を行う。ただ、圧刺激の具体的な影響をより具体的に検討するためには、圧刺激を印加していない状況で環境内のCa2+濃度を変化させたときの計測データが必要であることが分かった。そのため、実験担当者とデータ計測に向けて検討を進めていく。 またパラメータ推定に関しては、現在構築中の数理モデルの完成を待つ間に、別途偏微分方程式による細胞動態モデルを活用して、このモデルに関して実験の計測データを活用したパラメータ推定を進めていく。そのために、現在は行っている実験の状況に即した偏微分方程式モデルへの修正について進めている。これが完成すれば、離散型の数理モデルと偏微分方程式モデルの両者について実験データとの比較ができるので、高精度の予測を行う際に両者の長所を活かしたハイブリッドモデルの構築にも大きく寄与するものだと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に予定していた学会参加等の出張がすべて中止になってしまったため、出張の費用が残ってしまった。今年度についても、海外国内共に出張に行けるかが大変難しい状況であるため、旅費の分とあわせて物品費として使用する予定である。
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