研究課題/領域番号 |
19K12210
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研究機関 | 東京工芸大学 |
研究代表者 |
森山 剛 東京工芸大学, 工学部, 准教授 (80449032)
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研究分担者 |
泉 喜和子 福岡医療短期大学, 歯科衛生学科, 教授 (40389416)
奥田 逸子 国際医療福祉大学, 医学部, 准教授 (40594213)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シワ / 画像計測 / 医用工学 / 美容 / 表情 / 皮下組織 / ヘルスケア |
研究実績の概要 |
本研究は、①カメラ画像に対してシワを画像計測するアルゴリズムを開発すると共に、②別途断層撮影により得られるCT/MRI画像から皮下組織の構造を明らかにし、③①及び②によって得られる顔面のシワの画像特徴と皮下組織の構造、特に表情筋との関係式を明らかにする。さらに、③で得られる関係式の応用として④口腔外科領域の施術評価を行う、の4つのステップから成る。初年度は、これらすべてのステップにおいて必要な、頭部を撮影した画像データ取得に注力した。具体的には、まず、主に若年層では平静表情においてシワが見られないことが多いことから、本研究では笑顔の表情において小鼻の脇に現れる表情ジワ(鼻唇溝)を対象に決めた。また、カメラ画像において鼻唇溝が画像の陰影として現れるためには、頭部とカメラの視点(光軸)に対する光源方向の設計が重要となる。そこでカメラ画像の撮像系に関しても検討を行った。また、断層画像を取得する際、従来撮像装置内で仰臥位を取るのが一般的であったが、顔面の軟組織が受ける重力の影響で骨格等の皮下組織の構造もシワの形状も変化してしまう問題があった。そこで本研究では、座位で撮影できる歯科用CT装置を用いて、断層画像の撮影を行った。その結果、11例(男性3例、女性8例)の断層画像及びカメラ画像を取得することができた。今後はさらにデータ数を増やしていくと共に、カメラ画像からシワの画像特徴を算出するアルゴリズム、断層画像より皮下組織の構造に関する情報を抽出するアルゴリズム、そしてこれらシワの画像特徴と皮下組織構造とを対応付けるアルゴリズムの開発を行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の成果によって、CT/MRIといった断層画像を撮像することなく、スマートフォン等に搭載されている簡易なカメラで顔面を撮影するだけでシワを評価できるアプリケーションソフトウェアを開発することが可能となる。そして、そのために、カメラ画像から得られるシワの画像特徴と断層画像から得られる皮下組織の構造との間の対応関係を明らかにしようとしている。そのような応用場面においては、専門スタッフのいる店頭や、指定された照明条件に固定された洗面所においてカメラ画像を取得することが想定される。そこで、香粧品学会「シワ写真撮影ガイドライン」を参考に、人物の正面方向に対するカメラ及びストロボ照明の位置に関する検討を行った。具体的には、歯科で用いられる頭部固定装置のイヤーロッドを外耳孔に入れ、眼耳(フランクフルト)平面を地面に水平に固定した状態で、正面方向、左右方向、さらに45°斜め方向からそれぞれ照明を切り替えて鼻唇溝に陰影の生ずる画像を撮影する方法を考案した。当該撮影法によって10例の撮影を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
10例と少数ではあるがデータ取得の道筋が立ったことから、継続してデータ数を増やしていくと同時に、今後は断層画像から鼻唇溝に関連の深い大頬骨筋及び表在性筋膜(superficial musculo-aponeurotic system; SMAS)の体積や形状に関する情報を抽出するアルゴリズムの開発、カメラ画像から鼻唇溝の画像特徴を算出するアルゴリズムの開発、さらには、それらを対応付け、カメラ画像から皮下組織の構造に関する情報を推定するアルゴリズムの開発を推進する。なお、断層画像のうちX線CTによって得られる画像においては、X線吸収率の相違から、骨組織、筋肉組織、脂肪組織、そして空洞の4つの領域がそれぞれ異なる明度階調を有する画像領域として抽出される。そこでX線CT画像の4値化処理により筋肉組織の領域を特定し、これを体軸方向に積分することにより筋肉の体積を計算することができる。一方、鼻唇溝は、口輪筋外縁に位置する皮膚のせり出しによりその直下に生じた影の領域であるため、その影領域の方向性に着目した領域抽出並びに画像特徴の算出が可能であると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、断層画像及びカメラ画像を撮影する費用(人件費及び撮影費)、さらに得られた画像データを管理するための計算機環境を整える費用を初年度に計上していたが、研究分担者(福岡医療短期大学歯科衛生学科泉喜和子教授)の工夫により費用を抑制できた為、次年度使用額が生じた。 これに対して2年目以降では、当初の計画通りのアルゴリズム開発を行うと同時に、申請書へ記載した通り、人生100年時代における健康寿命延伸のための抗加齢医学に資する応用課題の解決に向けた検討を併せて行っていく。具体的には、顔面のシワから皮下組織構造の評価を行うアルゴリズムを、オーラルフレイル(表情筋減弱)の早期検出や筋力増強のための介入効果の可視化へ応用していく。すなわち、口腔環境と発せられる音声信号との関係を明らかにして、発する声から口腔環境の評価を行う可能性の検討を行うことが考えられる。また、顔面のシワが頭部姿勢や下顎位置に影響を受けることから、全身を撮影したカメラ画像の解析により直接姿勢を評価しシワとの関係を明らかにすることも考えられる。顔面のシワは一般には美容との関連を想起されることが最も多いが、このようにフレイル状態の評価や、脱フレイル状態のための介入評価の一指標として捉えることは、新たな技術領域を切り拓くものであると考えられる。これらの検討を行う際の音声解析及び画像解析に必要な備品に予算を充当していく。
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