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2020 年度 実施状況報告書

実世界で動作するDNAナノマシン構築手法の確立

研究課題

研究課題/領域番号 19K12216
研究機関東京工業大学

研究代表者

小宮 健  東京工業大学, 情報理工学院, 助教 (20396790)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードDNAコンピューティング / DNAナノマシン / 分子ロボティクス
研究実績の概要

本研究課題では、実世界で動作するDNAナノマシンの構築手法を確立することに取り組んでいる。研究代表者らがこれまで行ってきた、DNAの構造形成挙動を予測するシミュレーションと生化学的な実験結果にもとづいて反応を定量的に評価・検証して考察し、最適な配列を設計するアプローチによって高い設計精度、すなわち設計通りに実際に所望の動作特性を示すDNAナノマシンを構築する。三年間の研究計画の二年度目にあたる今年度は、DNAポリメラーゼによる酵素反応によって情報処理機能を示すDNAナノマシンについて、動作を予測するシミュレーションと生化学的な実験を行った。実験では蛍光測定により結果を定量的に評価し、シミュレーションとの比較検証を行った。本研究課題では、二次構造を形成しているDNAに対して相補的な配列を持つDNAがさらに結合し、二本鎖領域の鎖置換をともなう反応の進行を制御することで、最終的に“積み荷”としてのDNAを受け渡す分子輸送システムの実現を目指している。そこで、多段階の構造変化をともなうDNAポリメラーゼを利用したDNAナノマシンの動作について、二次構造形成したDNAに相補的なDNAが結合するステップを中心として、ソフトウェア「oxDNA」を用いた分子動力学シミュレーションと生化学実験結果を比較し、そこでの考察にもとづいて反応効率が向上する配列を設計し、さらにシミュレーションと実験を行うプロセスを繰り返した。その結果、当初の配列を用いた実験では所望の多段階動作が検出できなかったが、改良した配列を持つDNAナノマシンでは所望の多段階動作が進行したと思われる結果が得られた。以上の成果について、複数の学会で発表を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

実世界で動作するDNAナノマシンの構築手法を確立するためには、DNAナノマシンが設計した通りの動作特性を示したかどうかを定量的に検証できる必要がある。しかし、DNA分子のみの反応が比較的、統計熱力学モデルを用いた予測通りに振る舞うのに比べて、酵素反応を組み合わせた生化学的な反応系では、予期しない多様な副反応が起こる。そのような状況下で本研究課題の目標を達成するために、前年度は副反応が起こらない条件の探索や、副反応を抑制する手法開発に取り組んだ。今年度はそれらの知見を踏まえて、DNAポリメラーゼを利用して動作するDNAナノマシンについて、多段階動作のボトルネックとなっている、二次構造形成したDNAに相補的なDNAが結合する効率の悪いステップに着目し、分子動力学シミュレーションと生化学実験の結果を相互にフィードバックするアプローチで研究を実施した。シミュレーションを活用することで、通常の生化学実験だけでは特定することが難しい、低効率の要因となる要素反応ステップを特定し、これを改善する配列設計を行うことにより効果的に研究を進めることができた。この成果により、当初はまったく検出できなかった多段階反応産物、すなわち所望の動作が進行したと思われるDNAナノマシンを検出することが可能になった。ただし、検出される最終産物はまだわずかであり、DNAナノマシンの動作効率は低い。今後は要素反応ステップの効率を高める手法の開発に取り組み、最終的目標である分子輸送システムの構築を実現する計画である。

今後の研究の推進方策

今年度に実施した、シミュレーションと生化学実験結果を相互にフィードバックするアプローチによる知見を活用して、次年度にはより精密に設計された動作特性を示すDNAナノマシンを構築し、酵素反応を制御するデバイスなどへの応用が可能であることを実証する計画である。当初計画では温度バンドパスフィルタ特性を想定していたが、温度を制御信号として活用するデバイスや情報処理機能を持ったDNAナノマシンなど、より重要度の高い実装が可能であるかも検討する。酵素反応をともなう多段階反応の実験では、ボトルネックとなる要素反応ステップの同定や、各ステップごとの定量的な計測は困難であるが、今年度の成果が示す通り、効果的にシミュレーションを活用することで実効的な評価は可能である。そのようなアプローチにより、最終目標であるナノマシンどうしがDNAを受け渡す分子輸送システムの実現が期待できる。異なる動作特性を示す複数のDNAナノマシンを精密に設計・構築し、それらを適切な温度条件下で協調して動作させる。二次構造を形成したDNAに対し、相補的なDNAを投入することで起こる「鎖置換反応」が効率的に起こる設計により、DNAナノマシンの構造変化が温度で駆動される機能性分子システムの実現を目指し、要素であるDNAナノマシンの高効率化とシステム全体の動作の整合性をとりながら研究を推進していく。次年度は、より反応効率の良い酵素の選定なども含めた多方面からの検討を実施して、所望の動作特性・効率を示すDNAナノマシンの設計・構築を達成する。

次年度使用額が生じた理由

今年度は、DNAポリメラーゼを利用して多段階動作するDNAナノマシンについて、所望の動作特性の実現に取り組んだ。効率の低い要素反応ステップについて、予想よりもその同定と改善が困難であったため、当初計画よりも計算機シミュレーションを多く実施する必要が生じた。その結果として試薬やDNAの購入を必要とする生化学実験を行う回数は、計画よりも少なくなった。シミュレーションを多く実施したことで、効率の低い要素反応ステップの同定とそれを改善する配列の設計を行い、所望の動作を示すDNAナノマシンを検出することに成功したので、次年度にはナノマシンの構築・実験検証を進めることが可能となっている。以上の状況、および今年度も新型コロナ感染症流行が継続しているため出張や実験の実施に制約があったこともあり、次年度使用額が生じた。次年度はナノマシンの構築、検証、再設計のサイクルを加速して実施するため、実験支援員等の雇用期間を設けることで、定量的なDNAナノマシンの設計・構築手法を確立する本研究課題の計画を達成する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Reducing control alphabet size for the control of right linear grammars with unknown behaviors2021

    • 著者名/発表者名
      Kimoto Nobuya、Nakamura Shigetaka、Komiya Ken、Fujimoto Kenzo、Kobayashi Satoshi
    • 雑誌名

      Theoretical Computer Science

      巻: 862 ページ: 193~213

    • DOI

      10.1016/j.tcs.2020.11.051

    • 査読あり
  • [学会発表] DNAコンピューティングによる”機器不要”診断薬の創製に向けて2021

    • 著者名/発表者名
      小宮健
    • 学会等名
      バイオインダストリー奨励賞受賞者セミナー
    • 招待講演
  • [学会発表] Optimization of the multi-step DNA computing reaction that implements a state machine2020

    • 著者名/発表者名
      Shuntaro Sato、Masayuki Yamamura、Ken Komiya
    • 学会等名
      第58回日本生物物理学会年会
  • [学会発表] Optimization of the multi-step DNA computing reaction using oxDNA MD simulation2020

    • 著者名/発表者名
      Shuntaro Sato、Masayuki Yamamura、Ken Komiya
    • 学会等名
      CBI学会2020年大会
  • [学会発表] 分子ロボット将来像の共創に向けて2020

    • 著者名/発表者名
      小宮健
    • 学会等名
      第4回分子ロボティクス年次大会
    • 招待講演
  • [備考] 山村研究室 IoMグループのページ

    • URL

      https://bio-inspired.chemistry.jpn.com/

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公開日: 2021-12-27  

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