研究課題/領域番号 |
19K12216
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
小宮 健 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究プログラム), 研究員 (20396790)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | DNAコンピューティング / DNAナノマシン / 分子ロボティクス |
研究実績の概要 |
本研究課題では、機能性分子システムを実現するために、実世界で動作するDNAナノマシンの構築手法を確立することに取り組んでいる。研究代表者らがこれまで行ってきた、DNAの構造形成挙動を予測するシミュレーションと生化学的な実験を併用して反応を定量的に評価・検証し、その結果にもとづいて最適な配列を設計するアプローチによって、高い設計精度で所望の動作特性を示すDNAナノマシンを構築する。三年間の研究計画の三年度目にあたる今年度は、DNAポリメラーゼによる伸長反応で情報処理機能を示す分子システムを構成するDNAナノマシンについて、シミュレーションによる温度条件の検証と生化学的な実験を行った。実験では蛍光プローブを用いた電気泳動結果の計測等により結果を定量的に評価し、 モデル予測との整合性を比較検証した。そこで得た知見から、二次構造を多段階に形成・変化させることで有用な作業を実行する分子システムを実現するという目標に向けて、望ましい低温での動作と高い反応効率を達成するためには、反応機構の改変が有効であることが示唆された。そこで、分子内で起こる反応に限定しない機構に改変して、生化学実験による検証を行ったところ、所望の温度条件下で多段階動作が効率良く進行すると思われる予備的な成果を得た。今後は、反応効率がさらに向上する配列を設計し、その配列を用いて行った実験結果を設計にフィードバックするプロセスを繰り返して、機能性分子システムとしての多段階動作を達成する。改変前の反応機構に関する検証結果については、複数の学会で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実世界で動作するDNAナノマシンの構築手法を確立するためには、DNAナノマシンが設計した通りの動作特性を示したかどうかを定量的に検証できる必要がある。 しかし、DNA分子のみの反応が比較的、統計熱力学モデルを用いた予測通りに振る舞うのに比べて、酵素反応を組み合わせた生化学的な反応系では、予期しない多様な副反応が起こる。前年度までに、副反応が起こらない条件の探索や副反応を抑制する手法の開発、多段階動作のボトルネックとなるプロセスの特定に取り組んで得た知見を踏まえて、今年度はDNAポリメラーゼを利用するDNAナノマシンが所望の温度条件下で動作可能であるかを検証するため、シミュレーションと生化学実験を併用して研究を実施した。具体的な配列に対して配列長などを変えて詳細に検証した結果、DNA配列の設計や、要素反応を分割して実施するような配列の配置の軽微な変更では、変更できる動作温度の範囲は比較的高温に限定されることを明らかにした。そこでより発展性の望める反応系を実現するため、要素反応について分子内で起こる反応に限定しない機構へと大幅に改変した。この改変した反応機構について、結合領域の配列長などを変えて検証した結果、有用性が高い生理温度などの条件下においても、多段階反応が効率良く進行すると思われる予備的な成果を得た。今後は、より多段階の反応が高効率に進行するように反応条件の最適化に取り組むとともに、反応系が持つ能力についても多方面から検討を行い、最終目標である機能性分子システムの構築を達成する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度にシミュレーションと生化学実験結果を併用して、要素反応が起こる分子の割合を詳細に検証した結果、比較的高温の条件でしか反応の進行が見込めず、効率も低くとどまることが判明したため、分子内で起こる反応に限定しない機構への大幅な改変を行った。その上で行った検証実験では、統計熱力学モデルによる予測と整合するDNAの挙動が確認され、結合領域の配列長などを適切に設計することで、これまでと比べてかなり低い温度条件下において、多段階反応が効率良く進行すると思われる予備的な成果を得た。この知見にもとづいて、次年度にはより多段階の反応が高効率に進行する配列の設計と、反応条件の最適化を実施することで、酵素反応を制御するデバイスへの応用が期待される動作を実現する。また、反応系が持つ情報処理能力などにも着目して、当初計画で想定していた温度バンドパスフィルタ特性以外にも、より重要度の高い特性を示すDNAナノマシンの実装が可能であるかを検討する。定量的なモデル予測による設計を行わなければ実現が困難な動作特性を示すDNAナノマシンを構築し、蛍光測定や酵素反応実験でその挙動を定量的に検証することで、最終目標であるナノマシンどうしが協調的に動作して分子輸送などを実行する機能性分子システムの実現が期待できる。要素反応の高効率化とシステム全体の動作の整合性をとりながら研究を推進し、適切な温度条件下で効率的に二次構造を形成する設計により、所望の動作特性・効率を示すDNAナノマシンで構成された、機能性分子システムを創製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、DNAポリメラーゼを利用して多段階動作するDNAナノマシンについて、低温かつ高効率な動作の実現に取り組んだ。しかし、予想よりも高い温度条件が必要であり、その効率も低くとどまる結果であったことから、反応機構を大きく改変することで対応した。その結果として、試薬やDNAの購入を必要とする生化学実験を、当初計画よりも遅らせて次年度に実施する必要が生じた。反応機構から改変したことで、低い温度条件下で効率良く多段階の反応が進行する予備的な成果が得られたので、次年度には機能性分子システムの有用動作の検証実験を進めることが可能な状況となっている。また、今年度も新型コロナ感染症流行が継続しているため出張が行えなかったこともあり、次年度使用額が生じた。次年度はナノマシンの構築、検証、再設計のサイクルを繰り返し実施することで、機能性分子システムとしての多段階動作を実現し、定量的なDNAナノマシンの設計・構築手法を確立する本研究課題の計画を達成する。
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