研究課題/領域番号 |
19K12217
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小池 亮太郎 名古屋大学, 情報学研究科, 助教 (20381577)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動的構造 / 分子シミュレーション / アクチン |
研究実績の概要 |
アクチンフィラメントの伸長は細胞の変形や運動という普遍的な生命現象に直結しており,多数の蛋白質によって制御される.アクチンキャッピング蛋白質(CP)はフィラメントの端に結合しその伸長を止めるが,CARMIL蛋白質はCPと結合し,フィラメントに結合したCPを引きはがすことができる(結合解離).「CARMIL蛋白質によるCPの結合解離」の分子メカニズムを調査するために,結合解離の様子を,分子シミュレーションを用い計算機上で再現することを試みた.CPがアクチンとどのように結合しているのか,詳細はいまだ明らかになっていない.そこで,CPとの結合様式が詳細に明らかになっているV-1蛋白質を用い,CP/V-1複合体にCARMILが結合したモデル構造を作成する.そして,CARMILがCPとV-1の結合を解離させる様子をシミュレートし,「CARMIL蛋白質によるCPの結合解離」の分子メカニズムを調査する. 結合解離はCPの動的構造の変化を介して実現すると考えられている.そのため,昨年度は分子シミュレーションから得られたデータを解析し,動的構造がどのように変化するのかを調査した.動的構造の情報は運動部位の統計データとして表現される.本年度は,さらに追加で分子シミュレーションを行った.解離過程に関するシミュレーションデータを増加させることで,運動部位に関する統計データを充実させ,より正確に動的構造が変化していく様子を割り出すことが期待できる.また,動的構造に影響を及ぼすCARMIL蛋白質の部位を調べるために,弾性ネットワークモデルを使った網羅的な解析を行った.これにより,CARMIL蛋白質中のどの部位が動的構造に与える影響が大きいか推定することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに結合解離に関するシミュレーションを500ns(ナノ秒)まで実行した.今年度はこのシミュレーションをさらに延伸し,1500ns程度まで行った.また,条件を変えた結合解離シミュレーションを複数実行し,トータルで2000ns以上のシミュレーションデータを収集できた.動的構造を記述するための元データとなるシミュレーションデータを増強することができた. また,弾性ネットワークモデルを用いた動機構造の解析も行った.CP/CARMIL複合体の結晶構造をもとに,CARMILの長さが異なる700以上のモデル構造を計算機上で生成し,その動的構造を調べた.これにより,CARMIL蛋白質中のどの部位が動的構造に与える影響が大きいか推定することができた.この知見は結合解離シミュレーションを行うさいの拘束条件の選定に活かすことができる. 本研究ではシミュレーションデータの入手,動的構造の解析,動的構造と結合解離の関係の調査を行う.本年度はシミュレーションデータの増強を行った.動的構造の解析に関しては昨年度までに先行して500ns分は完了している.解析のためのツールは作成済みであり,追加で得られた分も速やかに解析できる.これらに,結合解離シミュレーションに活用可能な,CARMILの部位とCPの動的構造に関する新たな知見が得られたことも加味して,進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした.
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず,本年度に得られた追加のシミュレーションデータを解析し,結合解離の過程における動的構造を調査する.この解析では昨年度までに作成したクラスタリングツールなどを用いる.また,弾性ネットワークモデルを用いた解析から得られたCARMILの部位とCPの動的構造に関する知見を元に,拘束条件を追加した結合解離のシミュレーションを実行する.得られたデータを解析し,追加の拘束条件がCPの動的構造に与える影響を調べる. 動的構造を調べることにより,シミュレーションの過程でCPのどの部位の運動が変化していくかを明らかにすることができる.運動に変化が見られた部位と,CPとV-1の結合解離において重要であろう結合部位やその周辺部位との関連を調査する.結合解離に影響する部位を突き止めることで,より具体的なCPとV-1の解離メカニズムを構築する.
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