1.成果の具体的な内容 本課題は、抗原―抗体相互作用のインシリコ予測を目的に、ホモ3量体構造を持つラッサウィルスの表面糖タンパク質を取り上げ、表面糖鎖クラスタの形成と抗原―抗体相互作用への影響を分子動力学計算により解明することを目的とした。最終年度は、ラッサウィルスの表面糖タンパク質の分子動力学計算データを用いてタンパク質―タンパク質、タンパク質―糖鎖、糖鎖―糖鎖間相互作用を解析した。その結果、タンパク質機能部位近傍に2種の糖鎖クラスターが形成されることを確認した。次いで、分子動力学計算の結果を情報学的な手法と組み合わせ、表面糖鎖の立体構造ダイナミクスが及ぼす遮蔽効果を取り込んだエピトープ予測を実現した。予測結果は結晶構造データおよび既知のエピトープを良く再現するとともに、新たなエピトープの予測にも成功した。さらに、柔軟な糖鎖が取りうる立体構造を十分に探索するためにgREST法を用いた効率的な構造探索計算を実施し、ウィルス表面糖鎖を高い信頼性で予測する計算基盤を構築した。
2.意義、重要性 ウィルス表面タンパク質を覆う糖鎖は免疫反応や病気と関係しており、それらの構造と機能を理解することでワクチンの合理的な設計が可能になる。糖鎖集合系の立体構造ダイナミクスについて知られていることは未だ少なく、本課題の成果は、糖鎖集合系の構造―機能相関の理解を深めるだけでなく、それらを用いたエピトープ予測の可能性を示した点で、学術的にも技術的にも意義は大きい。
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