研究課題/領域番号 |
19K12251
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
宇佐川 毅 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (30160229)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 教育ビックデータ / 学習支援システム / ラーニングア ナリティクス / 学習データマイニング / eラーニング / モンゴル国立大学 / Moodle / 国際共同研究 |
研究実績の概要 |
学習支援システム上の教育ビックデータを活用し、学習者個々人の修学状況の解析に基づく学習支援を目的として、令和元年度は以下の3点について、研究を推進した。 まず、受講中の学習者個々人の学習支援システム上の活動記録を元に、履修放棄の可能性のある学習者を自動検出するシステムの構築に取り組んだ。具体的には、モンゴル国立大学の情報系学部の所属する大学2年生1110名が履修するに対する2つの必修科目を対象に不合格・履修放棄の可能性のある学生の早期検出システムを構築した。システムにはAI分野で広く活用されているニューラルネットワークを用いた。構築したシステムは、初回のonline quizの提出までの記録から、当該科目が不合格となった学生の25%を、中間試験の段階までの活動から65%の不合格者を推定できた。しかし、学習支援システムに残るログのみでは、これより大幅に推定精度を向上させることは容易ではないことも判明した。 このため、学生個々人の学習行動を把握するために、学習者が学習コンテンツを閲覧する際のマウス軌跡を動的に記録する手法を開発し、モンゴル国立大学の学生の行動を分析した。また、講義中の学習者の行動を動的に教師が把握するためのクリッカーツールをeラーニングシステムに実装し、実際の講義で試用した。 一方、オンディマンド・ビデオ教材による遠隔講義の学習記録においても、長時間のビデオ教材は学習者の注意力の維持が難しいことが、実際の遠隔講義におけるデータからも確認された。このことを踏まえ、教材として記録されたビデオや音声に対する検索機能を充実するための研究を進めた。具体的には、講義やゼミ中に収録したビデオを配信することを想定し、講義・ゼミに関連したキーワードを音声またはビデオの音声トラックから抽出する手法についても研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画立案時点では、学習支援システム上に保存された同一のシラバスを用いた科目における過去の教育ビックデータを用いることで、相当程度の精度で履修放棄者を推定できると考え、年度毎の学事歴の違いなどを正規化することで対応した。このアプローチで15回の講義期間で、7回から8回目の段階で、8割近い推定ができる場合があることが確かめられたが、年度によるばらつきの影響からか、6割程度に精度が下がる場合があることが確認された。さらに、構築したシステムを、モンゴル国立大学における2つの科目を履修した学生にも適応し、その推定精度を評価した結果を、国際誌で発表した。 一方、構築したシステムの年度毎の精度のバラツキの理由は明確ではないが、過去の教育ビックデータに、履修中の講義科目における学生の学習行動に関するより詳細なデータを活用することで、上記の課題のみならず、本研究で目的とする「履修中の学生の状況を動的に推定し、メンタリングや学習支援、さらには教授内容の最適化などを支援する機能の構築」に近づくことができると考え、学習者個々の学習行動の把握を並行して行うこととした。 その一つの対応として、学習者個々の学習支援システムの利用状況を詳細に把握するため、学習支援システム画面上のマウスの位置を時系列データとして把握するシステムを構築した。構築したシステムに関して、Big Data分野の国際誌で発表した。今後はデータを分析することで、学習行動の分析に結びつける計画である。 以上から、当初計画した内容について一定の成果を出しつつも、新たな課題を克服するために付加的な研究テーマを追加した形で、研究を実施しており、「概ね順調に進展している。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
学習支援システム上に保存された同一のシラバスを用いた科目における過去の教育ビックデータを用いることで、相当程度の精度で履修放棄者を推定について、これまでに用いたk-means法や、ニューラルネットワーク以外の機械学習系のツールでの推定を試みる。加えて、動的な学習行動を把握するためのツール、具体的にはマウストラッキング、WEBカメラによる視野分析、およびクリッカーにより得られた学習中の動的な教育ビックデータを活用し、長期に渡る学習ビックデータのみならず、学習者個々の動的なデータとの融合による学習支援の機能の実現に向け研究を続ける。 また、今回のコロナ禍による全学的な遠隔講義の実施により、従来収集が難しかった大規模なデータの蓄積が進むと想定され、今後の研究対象としても可能な範囲で取り込むことを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年3月に予定していた日本教育工学会(長野市)に2名の出張を計画していたが、新型コロナウイルス感染症対策のため、会議自体が遠隔参加となり、旅費の支出を見合わせた。また、共同研究者との打ち合わせのために3月に予定していたヤンゴン工科大学教員の招聘が、渡日前々日のミャンマー政府による国家公務員の出国禁止命令により、実現しなかった。加えて、3月上旬に採択通知が届いた論文(Journal of Big Data; Springer) の掲載費用を支払いクレジットカードで行い、3月下旬に手続きを行ったが、クレジットカードの記録の発行が4月になり、令和元年度内での支出ができなかった。以上から、理由から年度末に執行が滞り、当初予定から大きく支出計画が変更となった。
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