研究課題/領域番号 |
19K12257
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
篠沢 佳久 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (80317304)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | e-learning / 電子掲示板 / グループウェア / ネットコミュニティ |
研究実績の概要 |
これまで,講義の補佐的な役割を目的とした電子掲示板の効果的な運用のため,講義に関する疑問を抽出し,それらを共有させることにより,学生の疑問の解消を図ることを試みて来た.しかしながら,電子掲示板上の発言には,講義に対する疑問だけなく,講義に対する要望や意見も多く含まれる.こうした意見に対しても回答することが必要であるが,教員にかかる負担も大きい.本年度は,電子掲示板の発言の中から,講義についての意見を教員に負担をかけずに抽出し,自動回答する手法(下記(1)~(4))の考案を試みた. (1)講電子掲示板上の発言から講義に対する意見(4,187件)とそれ以外の発言(5,225件)に分類する.分類にはCharacter Level Convolutional Neural Network(CL-CNN)を用いた.2-corss-validationを行なった結果,94.9%の正解率が得られた. (2)講義に対する意見(4,187件)を肯定的な意見(2,249件),批判的な意見(1,938件)に分類する(極性分類).(1)と同様にCL-CNNを用いて分類した結果,89.0%の正解率が得られた. (3)極性分類後の意見を肯定的な意見,批判的な意見ごとに9個のカテゴリー(成績評価,教材,レポート,講義方法,教員,プレゼンテーション,語学,講義,感想)に分類する.分類には(1)(2)と同様にCL-CNNを用いた.その結果,肯定的な意見に対しては90.6%の正解率,批判的な意見に対しては89.3%の正解率が得られた. (4)分類後の意見に対して,回答のテンプレート文を自動生成する.クラス分類後の批判的な意見に対して,回答文のテンプレートの自動作成を行なう.テンプレート文の自動作成にはエンコーダー・デコーダー型のLong Short-Term Memory(LSTM)を用いた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては次の四項目の実施を予定している. (a)電子掲示板上の発言の分析を行ない,学生間で自発的に疑問を解消することができた事例とそうでなかった事例を分析し,その差異についての特徴を調べる.(b)(a)で考察された要因をもとに電子掲示板上での発言内容から,発言者の関係を自動的に抽出する機能の提案を行う.(c)(b)で考案した機能をもとに,学生間の発言を促進させる機能の考案を図る.(d)全発言の中から表出した疑問と意見を自動抽出し,どのクラスでも利用できるように知識化されたデータベースとして蓄積すると同時に,また教員の負担を軽減するため,教員が学生の状況を把握し,疑問に対して自動回答する機能を考案する. 本年度においては,(a)(d)について実施した.これまでは電子掲示板の発言の中から有用な情報を抽出するため,キーワードによる手法で行なって来た.本年度においては,電子掲示板の発言の中から講義に関する意見を抽出するため,キーワードによる抽出方法ではなく,ニューラルネットワークによる抽出方法を行なった.その結果,従来までのキーワード抽出による精度は70%程度の正解率であったが,ニューラルネットワークによる抽出方法では,手法(1)(2)(3)においていずれも90%程度の正解率を得ることができた.電子掲示板からの有用な意見の抽出方法については,一定の成果をあげることができ,機能化の目処をつけることができた.一方で,自動回答機能に対しては,同様にニューラルネットワークを用いて回答文のテンプレートの自動作成を行なう手法を考案した(手法(4)).現状,定型句による回答方法よりは,より的確な回答文を生成することができる一方で,長文に対する回答の場合,回答文の生成精度が低下するといった問題が生じた.そのため,自動回答の機能化については,次年度以降も改善を図っていく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,(b)(c)について実施する.2019年度の研究成果により,電子掲示板上の発言を肯定的な意見,批判的意見,さらには9個のカテゴリーに分類することができた.そこで,電子掲示板上の発言者の関係および形態を明らかにした上で,その形成されるコミュニティを抽出する機能の考案を行なう.すなわち,電子掲示板上での発言内容から,発言者の関係を自動的に抽出する機能の提案を行う.これについては,発言内容を適切なカテゴリーに分類できていることから,同様な発言をする傾向にある発言者,異なる発言をする傾向にある発言者に分類が可能ではないかと考える.コミュニティ抽出方法については,これまでネットワーク分析によって抽出を試みてきた.抽出方法については,2019年度に有効性が示されたニューラルネットワークを用いて,コミュニティ抽出を行なうことを検討している.そして考案したコミュニティ抽出モデルをもとに,発言数を増やし(発言者の偏在性の解消),学生の疑問を表出させ(発言内容の偏りの解消),電子掲示板上での発言を促進するための機能の提案を行なう.例えば,講義に対して否定的な意見の多いコミュニティに対しては,講義に対する不満を解消し,より積極的に発言するように仕向けるようにする. また2019年度において実施した自動回答機能についても,回答文の生成精度がまだ十分ではない.現状,カテゴリーごとで回答文の自動生成を行なっているが,長文に対する回答精度が特に低い.そのため,回答文の自動生成の手法の改良ならびに特性の異なる文ごとを対象に回答文の生成を行ない,精度向上を図ることを検討している.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては,新型コロナウィルスの影響により,発表予定であった学会の開催が中止となり,計画当初予定していた旅費が未使用となってしまったためである. 次年度については,コミュニティ抽出を目的としたニューラルネットワーク構築のためのデスクトップパソコンの購入および研究成果の発表のための旅費としての使用を予定している.
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