研究課題/領域番号 |
19K12259
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研究機関 | 常葉大学 |
研究代表者 |
山下 浩一 常葉大学, 経営学部, 准教授 (30340110)
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研究分担者 |
小西 達裕 静岡大学, 情報学部, 教授 (30234800)
小暮 悟 静岡大学, 情報学部, 准教授 (40359758)
野口 靖浩 静岡大学, 情報学部, 講師 (50536919)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 学習支援システム / プログラム視覚化システム / プログラミング教育 |
研究実績の概要 |
(19-1) 我々が先行研究にて構築してきたプログラム視覚化(PV)システムであるTEDViTでは,動的データ構造を伴うPVの視覚化定義が著しく高コストで,描画定義は現実的でなかった。我々はTEDViTの描画ルールの記述方式を拡張し,より抽象的な方法でメモリ上の特定のデータを参照する機能や,描画オブジェクトの描画位置を指定できる機能を実装した。連結リストの視覚化を題材に評価実験を行ったところ,我々のシステムではルール記述にかかる時間を大幅に短縮できることが明らかになった。(雑誌論文1: ICCE2019) (19-2) また,TEDViTの生成するPVの表現の幅を広げるべく,オブジェクト指向言語への対応にも取り組んだ。我々はTEDViTが標準的に視覚化していたプログラム実行中のメモリイメージの代わりに,クラス図とオブジェクト図を元にした「オブジェクト指向概念モデル」を視覚化する機能をTEDViTに盛り込んだ。17名の学生に我々のシステムを利用してもらい,その学習効果をアンケート調査によって評価したところ,8割以上の被験者から理解の向上が回答された。(雑誌論文2: ICCE2019) (19-3) さらに,TEDViTを利用したこれまでの授業実践やプログラミングやアルゴリズムの教科書等書籍からプログラムの挙動の一般的な描画を調査し,プログラムを与えたときに一定の範囲の描画ルールを自動生成するシステムを構築した。プログラミングの授業を担当する教員やTAなどを対象にした評価実験では,本システムによって描画ルール定義時間が大幅に削減できることが示唆された。アンケート調査に基づく主観評価からもシステムの有用性が示唆された。(学会発表1)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,我々が先行研究にて構築してきたプログラム視覚化(PV)システムであるTEDViTを拡張し,広範なアルゴリズムを対象に,教師の意図を反映させた形式で,学習者自身のプログラムに基づくPVを生成できるようにしたシステムを構築することである。動的データ構造を伴うプログラムの挙動は初学者が理解に躓きやすい学習対象である。研究成果(19-1)は,PVシステムの需要が高いであろう学習対象にTEDViTを対応させたものであり,本研究の目的の一つに合致した成果といえる。また,この成果はコンピュータ利用教育に関する歴史ある大規模な国際会議the 27th International Conference on Computers in Education(ICCE2019)に採択されており,国際的に高い評価を受けていると考えられる。 研究成果(19-2)および(19-3)は,TEDViTをベースに本研究で構築するPVシステムを実授業に投入して学習効果を評価する際,投入できる授業の選択肢を広げることを目的としたものである。プログラミングの授業で扱う言語としてJavaが採用される例は多いが,こうしたオブジェクト指向言語を対象とする際,TEDViTの生成するPVには,クラスのフィールドやメソッドの概念,継承の概念,ポリモーフィズムの概念などが表現できない問題がある。また,TEDViTの特徴でもある教師による描画ルールの定義は,教師への大きな負担になることが予測される。本成果は,これらの問題を解消することで,我々のシステムを実授業に導入しやすくする効果が期待できる。なお,成果(19-2)も成果(19-1)と同様,ICCE2019に採択されている。 以上,TEDViTの拡張および実授業導入の準備の双方において進捗が認められることから,本研究は比較的順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の三つの研究成果を発展させる形で,引き続きTEDViTが対応可能なプログラム,アルゴリズム,データ構造の拡充を進めるとともに,我々のシステムを導入する実授業における学習シナリオを検討し,必要な拡張をTEDViTに適用する。 研究成果(19-1)では,PVシステムの需要が高いであろう学習対象として主に連結リストを想定し,TEDViTが動的データ構造を伴うPVを生成できるような拡張を施した。同様にPVシステムの需要が見込まれる学習対象にポインタがある。特に,ポインタをメモリモデルに結び付けて理解させようとする際には,プログラムの処理対象を論理的なデータ構造として捉えなければならない場面と,具体的なメモリ空間として捉えなければならない場面とが交互に生じ,初学者の混乱を引き起こしているものと考えている。TEDViTの枠組みでこうした初学者をどのように支援できるのか,あるいはどのような視覚化情報が初学者を支援できるのか,多面的な観点で考察を進めてシステムの拡張を行うことを計画している。 また,研究成果(19-2)で拡張したオブジェクト指向概念モデルは,現在のところ対応できるプログラムに強い制約を持っており,多様なプログラムに対応できる汎用性を持っていない。この機能についてはさらなる開発を進め,オブジェクト指向言語にも実用的な水準で対応できるPVシステム構築を目指す。 さらに,学習者自身のプログラムに基づくPVを教師の意図を反映させた形式で視覚化する際には,描画ルールの定義が著しく困難になるものと考えられる。研究成果(19-3)では一定の範囲内での描画ルールの自動生成を検討したが,例えばルール定義を支援するGUIを設計するなど,別の観点から描画ルール定義のコストを削減する方法も検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で構築を目指すシステムのベースとなるPVシステムであるTEDViTは,我々がこれまでに構築してきたコードリーディング支援システムLEPAをベースとして開発されたものである。当初の計画では,2019年度にシステムのプロトタイプ構築とその動作テストを行うためのノート型PCの購入を予定していたが,LEPA開発時の開発環境やさまざまな調査データの新環境への移行計画に遅れが生じたため,ノート型PCの購入計画に遅れが生じている。次年度使用額が生じた理由は,このノート型PCの購入が遅れたためである。 2019年度はLEPA開発時の開発環境を継続してさまざまな開発や動作テストの作業にあたったが,LEPA開発時の環境は機材購入時からすでに4年が経過しており,老朽化が懸念される状況にある。新しい開発環境への移行計画を早期に取りまとめ,次年度中に機材購入を遂行できるような購入計画を策定する。また,新型コロナウィルスの影響で国際会議がインターネット上の仮想空間で開催される例が増えてきており,海外出張のための旅費の予算が当初計画していた通りに執行できなくなる可能性がある。旅費と物品費の科目間流用も検討しながら柔軟に予算執行することを計画している。
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