研究実績の概要 |
本研究は,防水型9軸センサを用いた紙漉き時の動作計測と,アイマークレコーダを用いた視線移動計測を組み合わせ,職人の持つ暗黙知的技能を定量化することを目的として実施した. 計測実験は,出雲民芸紙の工房にて実施した.紙漉き歴40年以上の職人1名,紙漉き歴2年程度の弟子1名を対象に大判(1000mm×620mm)の紙漉き時における視線移動と紙漉きの道具である簀桁(すけた)の動作計測を行った.また,計測環境(気温,水温)に応じて粘性が変化する「ねり」の影響に注目し,職人らがどのように適応し,漉き方を変えているのか調査を行った.データ解析結果から,簀桁を振る3工程である「掛け水」,「調子水」,「捨て水」の動作は,計測環境が変わっても振り方(最大角度,最大角速度および回数)は一定であったが,「調子水」の工程の時間に関しては,粘性や紙料の残量に応じて時間を調整することで紙を均一に漉いていることがわかった.計測時の「調子水」時間は7.36s~25.55sと漉く時期(6月~11月)によって大きく変化していた. コロナ禍のため,本来計画していた計測回数の半分程度しか実施できなかった.紙漉き職人および弟子の1名ずつのデータしか取得できていないため,今後追加の計測・解析が必要である.今後の課題は,「ねり」の粘性が季節(主に気温の影響)によって変化するため,紙漉き時に紙料を入れたすき舟内の粘性を計測し,均一な和紙の製紙のために適切な「調子水」の時間を求めることが挙げられる.また,開発した装置を用いて技能訓練を実施した際の技能向上の効果についても検証が必要である.
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